悪人
「なぜ、もっと早くに出会わなかったのだろう――携帯サイトで知り合った女性を殺害した一人の男。再び彼は別の女性と共に逃避行に及ぶ。二人は互いの姿に何を見たのか? 残された家族や友人たちの思い、そして、揺れ動く二人の純愛劇。一つの事件の背景にある、様々な関係者たちの感情を静謐な筆致で描いた渾身の傑作長編。」
ある殺人事件をめぐる加害者、被害者の群像劇。傑作長編。
まったく内容は違うのだが、町田康の傑作犯罪小説「告白」と読後感が似ている。「悪人」は朝日、「告白」は読売で、共に新聞連載小説だったからかもしれない。テンポが似ているのだ。数ページごとに拍子があるような。そのリズム感がちょっとずつ加速していく感じ。長編であることが読んでいて嬉しくなってしまう。
・告白
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004743.html
この作品には美男美女がでてこない。華麗な生き方をしている人がいない。舞台は地方都市の郊外で、ぱっとしない人生に、何かを諦めて生きているような人たちが登場人物である。そんな脇役のような人物たちが、読み進むうちに、ちゃんと思い入れできる主役キャラクターに見えてくるのが、この作品の読みどころ。
事件をめぐる関係者ひとりひとりに対して、ドキュメンタリ風に、強いスポットライトを当てていく。ストーリーもいいが、それ以上に、各章で人物が入れ替わる一人称による内面描写が魅力なのだ。人物デッサンの積み重ねによる厚みがすばらしい作品だと思う。そこにたちのぼる「人間の匂い」にむせかえる。
今年ここまでに読んだ新作長編小説でベスト、かな。