遠野物語 森山大道
写真家 森山大道の1976年の作品の文庫版。
・森山大道オフィシャルサイト
http://www.moriyamadaido.com/top.html
モノクロで極端にローキーで、こってりと真っ黒で、粒子が粗い写真が並ぶ。眼をほそめて世界をぼんやり眺めているときの見え方だ。白くぼおっと浮き上がる景色は、柳田国男の遠野物語ではなくて、一昔前にどこかで見た日本のふるさとのイメージである。
「僕のように実際に帰るという意味での「ふるさと」などどこにもなく、ただただ恋を恋するがごとく、いい年をして甘ったれて、イメージの「ふるさと」を追い求めている者にとっては、「ふるさと」って、きっと幼時からの無数の記憶のなかから、さまざまな断片をつなぎあわせてふくらませた、あるユートピアというか、「原景」なんじゃないかって自分では思うわけです。そんな僕の「ふるさと」像の具現というか仮構の場所として、僕にはやはり遠野へのこだわりが抜きさしならずあったと言うほかないわけです。」
「だから僕がいまの遠野にカメラを持ってでかければ、たとえ架空のイメージにどんなに憧れていたところで、オシラサマや、ザシキワラシや、カッパたちに会うことはできませんが、そのかわりにアグネス・ラムや桜田淳子のポスターや、萩本欽一のペーパードールにあえるわけですよね。つまりそのことのほうが言うまでもなく大事なことだろうと僕は思うんです。」
ひたすら自らの故郷の原景を追い求めて、クリシェ(典型的なイメージ)を撮ろうとしても、実際に写るのは、クリシェの影としての現実の遠野だったということなのだろう。解説によるとこの作品を撮影中、写真家は長い内省を深めている時期だったらしく、どの写真も心象風景である。夢にでてきた世界をそのまま印画紙に焼き付けてしまったような、印象の強さがある。
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