「世界征服」は可能か?
私も子供の頃、世界征服は、ちゃんと企んでいた。
この本は岡田 斗司夫が「仮面ライダー」「北斗の拳」「機動戦士ガンダム」「ドラゴンボール」「バビル二世」など、少年向けのアニメ・漫画・テレビ・映画に登場する、世界征服を企む悪者を徹底分析する。
世界征服を企む悪者は次の4タイプに分類できるらしい。簡単な質問に答えると、あなたがどのタイプかがわかるようになっている。
Aタイプ:魔王 「正しい価値観ですべてを支配したい」
Bタイプ:独裁者 「責任感が強く、働き者」
Cタイプ:王様 「自分が大好きで、贅沢が好き」
Dタイプ:黒幕 「人目に触れず、悪の魅力に溺れたい」
この本が面白いのは、それぞれのタイプの世界征服を突き詰めていくと、実際どうなるかを考えてみるところ。たとえば征服感を味わうという目的では、支配者と被支配者にコミュニケーションが成り立たないといけないという指摘がある。昆虫や動物を支配しても楽しくない。
「征服の喜びには、支配されている側の悲鳴とか、感謝の声、称賛の声が必要です。ところが支配/被支配の間にコミュニケーションが可能でないと、支配関係は成立しません。常に感謝されたり、恐れられたり、怖がられたりすること。それが世界征服の醍醐味です。そのためには、ある程度以上、コミュニケーションのレベルが必要になります。」
それから、世界を征服すると本当に楽しいのか。著者はこう分析している。
「しかしいまや、世界を征服して「富を独占」することには、意味がなくなってしまいました。富を独占するのではなく、市場を活性化して、みんなが豊かな世界を作ること。それが支配者がもっとも簡単かつ確実に「栄耀栄華」を楽しめる方法なのです。」
つまり、北朝鮮の独裁者より、ビルゲイツの方が、世界最高の娯楽を楽しめるし、名声も大きいということである。アレクサンダーやチンギス・ハーンの時代と違って、支配者階級の贅沢を、自由社会の「金で買える贅沢」が遙かに上回ってしまったからだと著者は分析する。
おバカなことを真面目に考え抜くのがこの本の魅力。ショッカーの目的から始まって、世界征服の理論化、そして現代文明論まで、熱っぽく語られる。岡田節が全開の楽しい本である。