日本神話のなりたち
構造主義的アプローチで日本神話群を分析する研究書。日本神話はそれぞれ縄文、弥生、古墳時代に流入したとみられる3層にわけられるという。
第一層はオホゲツヒメ、ウケモチ、ワクムスヒなどが主人公として語られる食物の起源を語る神話だ。殺された神の遺体から穀物などが豊穣に生まれてくるようになったという内容で、ハイヌウェレ型神話と呼ばれる。インドネシア、メラネシア、南北アメリカにかけて近似した神話が分布する。
第二層は水田耕作に伴う神話群で、イザナギ・イザナミ、ヲロチ退治、海幸山幸の神話などが含まれる。イザナギ、イザナミは兄妹が結婚して国産みをする。最初の子は海に流してしまう。木のまわりをまわって結婚の誓いを立てるなど細部まで似た神話が、中国にもあるそうだ。
第三層はイザナギの黄泉の国訪問やオホクニヌシの成長物語などだが、ギリシア神話との類似性が顕著なものがいくつもある。朝鮮半島を通って、西の文化の流れをくむスキタイ神話(ヘロドトスが後世に伝えた)経由でもたらされた影響らしい。
世界に類似した神話が存在するのは、インド・ヨーロッパ語族の移動の歴史と関係が深いらしい。著者はこの語族の神話を研究した著名な学者デュメジルの、三機能体系という理論を日本神話の起源に適用して説明する。
三機能とは
第一機能 宗教
第二機能 戦闘
第三機能 食糧生産
の3つである。
「他所ですでにくり返して詳論してきたように、日本神話は明らかに、アマテラスとスサノヲとオホクニヌシを三大主神格とし、これら三神のあいだに三つ巴とも言える葛藤を軸にして、主な部分が組み立てられている。そしてその中のアマテラスが祭政の第一機能を、スサノヲが暴力と武力の第二機能を、オホクニヌシが豊穣、愛欲、医療などの第三機能をそれぞれ明らかに代表することによって、神話の全体が、フランスの比較神話学者デュメジルのインド・ヨーロッパ語族の神話に共通するものであったことが明らかにされている、「三機能体系」にまさに則って構成されている。」
日本神話で最も奇妙に感じる「国譲り」を著者はこの三機能体系で説明がつくと述べている。国作りをしたオオオクニヌシ一派が、後から降臨した天皇家の祖先に支配権を譲り渡す話である。
「つまり、この神話には、第一機能と第二機能をそれぞれ担当する祭司と戦士が、神聖な王家とともに支配層を構成して、国土に土着して生産のための労働に従事するはずの庶民たちの第三機能を統監するという、デュメジルの言う三区分イデオロギーに特徴的な理念が、きわめてはっきり表明されていると思われるのだ。」
三機能を統合することにより、支配者層が安定した権力基盤を獲得するというパターンは、若干の変化はあるものの、スキタイ、高句麗にも同様の構造がある。さらに遠くギリシア世界との類似性もあるという指摘が「ロムルス・ヘラクレス・インドラとヤマトタケル」という章で語られている。
神話素のような物語の構成要素のDNA解析を試みる手法で、複雑な日本神話のなりたちが、世界の神話に対置され、きれいに整理されていく面白い一冊。
日本古代文学入門
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・日本の聖地―日本宗教とは何か
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・日本の古代語を探る―詩学への道
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