組織を強くする技術の伝え方
2007年問題と呼ばれる団塊世代の大量退職が始まっている。日本企業の屋台骨を作った世代が会社を去ると同時に、蓄積された技術も失われていく。「失敗学」「創造学」で有名な著者は、技術を「知識やシステムを使い、他人と関係しながら全体をつくり上げていくやり方」と定義し、その伝達方法についての成功例や失敗例、ノウハウを語る。
「伝える側が最も力を注ぐべきことは、伝える側の立場で考えた「伝える方法」を充実させることではありません。本当に大切なのは、伝えられる相手の側の立場で考えた「伝わる状態」をいかにつくるかなのです。」
これは年配者から技術や人生論を伝えられる側として、ときどき私も感じることがある。大先輩の言うことが、わかるときと全然わからないときがあるのだ。後輩の私のことを考えて「極意」をいきなり伝授されても、ちんぷんかんぷんになる。極意とは、要点のイメージであり純粋エッセンスである。限りなく貴重な情報だが、全体像を把握していない私はその意味が理解できない。野球の長嶋監督から、「バッティングの基本はピューと来たらパーンだ」なんて風に、教わるイメージだ。
「ビュー」「バーン」って何ですか?と聞いて答えをもらってもまだわからない。そうした教えは、自分で何年間も散々の苦労をしてみて、ある日突然わかったりする。でも、大先輩はとっくに現場を去っていて、お礼の言いようもないものだ。そういうチグハグなドラマが、仕事や学問の現場で日々起きているような気がする。
著者は技術を伝えるポイントとして次の5つを挙げている。
1 まず体験させろ
2 はじめに全体を見せろ
3 やらせたことの結果を必ず確認しろ
4 一度に全部を伝える必要はない
5 個はそれぞれ違うことを認めろ
そして伝える相手に「自分が人に伝えるときのことを意識させる」のがいいと言う。伝えた相手が講師になって別のだれかに教える機会を与えると、定着がよいらしい。本気の受け入れ態勢をどう作らせるか、なのである。社外のセミナーに無料参加させる代わりに、会社に戻ったら講師として社内でそれを教える制度などを推奨している。
貴重なプロの技術にマニュアルで伝えられる内容は多くはない。重要な部分は、ベテランの暗黙知であり、境地であり、勘なのだと感じる。それを移転するには、組織内に世代間の濃い関係がないと無理だろう。師弟関係のようなものを、組織内でいかにつくるかが大切なのだなとヒントをもらった。
・畑村式「わかる」技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003968.html
・決定学の法則
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001676.html
・創造学のすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000846.html
・わかったつもり 読解力がつかない本当の原因
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003801.html
・「わかる」とはどういうことか―認識の脳科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000973.html
・「分かりやすい文章」の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001598.html
・「分かりやすい表現」の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000451.html