若き数学者への手紙

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・若き数学者への手紙
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偉大な数学者が、数学に興味を持った親友の娘「メグ」にあてて書いた21通の手紙。メグは一通目では高校生だが、数学者のアドバイスに従い、数学を専攻して大学、大学院へ進み、研究者となり、21通目では教授の終身職に就く。数学者で科学読み物の名手イアン・スチュアートいよるフィクション。

数学の世界の面白さ、広がりと深さ、才能の磨き方、数学者という職業について、研究者や教授としてうまくやっていくには、など、数学を専門とする人生への総合的な指南書。数学者の半生の疑似体験ができる。

数学の普遍性についての哲学語りが勉強になる。

「人間の数学は人間が自覚しているよりずっと密接に、人間固有の生理学や、経験や、心理的な思考に結びついている。あくまで局地的なものであって、普遍的ではないんだ。幾何学で扱う点や線は、物の形に関する理論の、ごく自然な基盤に見えるかもしれない。しかし点や線は、人間の視覚システムがこの世界を分析するときの端にでもある。異星人の頭脳は、形ではなく、匂いや、引き起こされる困惑の度合いなどを基本に世界を知覚するのかもしれない。それに、1,2,3といった離散数は、わたしたちには普遍的に感じられるとしても、元をたどれば、たとえば羊のように似たものを集めてそれを財産と考える人間の傾向から生まれたものなんだ。」

私達は恐らく手指がたまたま10本あるから、10進数を使っている。12本だったら12進数を一般的に使っていたのだろう。高次元や量子論などのプロの数学者が取り組む高度な問題は、想像力で人間固有の数学から一旦離陸しないと理解できない。

「微分方程式にしろ時計にしろ、これらは道具であって、答ではない。これらの道具は、もともとの問題をより一般的な状況に埋め込んで、物事の流れを理解するためのより一般的な方法を導き出すことによって、機能している。こうして一般化されたことによって、これらの道具が別の場面でも使える可能性は高くなる。だから、理屈に合わないほど有効に見えるんだ。」

数学だけでなく、多くの学問に共通しそうな、教育のコツが次のように語られている。

「数学は(概念的な意味で)手順を物に変えて進んできた。たとえば「数」は、物を数える手順から始まった。片手の指を(親指も含めて)折っていくと、「一、二、三、四、五」となって五という数に到達する。しかし、そこからさらに先に進むには、ある時点で数えるのをやめて、五それ自体を物と考えなくてはならない。」

「トールは、このような手順(プロセス)を伴った概念(コンセプト)のことを「プロセプト」と呼んでいる。プロセプトというのは、場合によっては手順と見られるし、場合によっては概念、つまり物としても見ることができる便利な物だ。この二つの観点を楽々と切り替えるのが、数学のコツなんだ。」

あらゆる知識は答えではなく、道具なのだと知るということが、数学に限らず、多くの学習の極意なのかもしれないと思った。


・数学と論理をめぐる不思議な冒険
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004631.html

・なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003518.html

・数学的思考法―説明力を鍛えるヒント
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003395.html

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このページは、daiyaが2007年4月30日 23:59に書いたブログ記事です。

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