「私家版魚類図譜」「私家版鳥類図譜」
大ファンの諸星大二郎の漫画。
諸星大二郎の作品は、大きくオドロオドロしい系と、シュールな喜劇系がある。前者は「暗黒神話」、「マッドメン」、「妖怪ハンター」シリーズなど日本と海外の神話をモチーフにした作品群であり、後者は「しおりとしみこの」などの創作物語の作品群である。
私は前者が圧倒的に好きだ。
諸星大二郎の作品に携帯が出てくるのが古いファンとしては衝撃だった。
「魚類」と「鳥類」はともにどちらかといえば後者寄りなのだが、両者が混在した短編集でもあり、魚類が若干前者に近いように感じた。日本神話には海寄りの話が多いから自然とそうしたイメージになるのかもしれない。鳥類の方が哲学的思索的な印象がある。
2冊を通じてのベストは「鮫人」。中国の宋の将軍がひとり謎の漁村に漂着して出会う不思議譚。絵のタッチや物語の雰囲気が諸星大二郎の真骨頂であるドロドロ神話系のイメージに染まっている。
6作収録の鳥類編は、各作のバリエーションが楽しい。諸星大二郎の作品の幅の広さがこの短編集で味わえる。ホラー、ファンタジー、ミステリー、ギャグ、なんだそりゃ、など、次はどう出てくるのか意表を突かれる。
諸星大二郎が、あとがきに文章を書いている(漫画の天才だが文章はなぜか下手)。いつも興味しんしんでこの人の文章を読むのだが、今回もまた拍子ぬけさせられる。「鳥類図譜」と「魚類図譜」が書棚に二冊並べて置いたら気持ちいいなと思ったから、鳥類に続けて魚類を描いただけ、だそうである。作品から深い哲学を感じるのだが、作家は結構、思いつきで描いているようだ。天然の才能はすごいな。