メメント・モリ
この写真集を見て心を揺さぶられない人はいるのだろうか?
20年前に出版された、藤原新也の伝説的な傑作。
メメント・モリ=死を想え。
インドの野原で焼かれ、川原で野犬に食われる遺体の写真。「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」「遠くから見ると、ニンゲンが燃えて出す光は、せいぜい60ワット3時間。」というコメントがつけられている。行き倒れの行者の遺体に「祭りの日に聖地で印をむすんで死ぬなんて、なんてダンディな奴だ。」。
思わず眼を伏せたくなる、生々しい死の現場がある一方で、数百年、数千年変わらない気がする原風景の懐かしさや、この世と思えぬ、天上の楽園のような美しい風景もある。死を意識することは生の喜びを確認することにつながるんだという、著者の視覚メッセージに、まず頭をぶん殴られ、言葉を失い、そして魅了される。
露出不足気味の暗い画面に、ぼうっとインドの、日本の、生と死が浮き上がっている。ピントをあえてはずしていることで、読者の想像の余地を残す。著者が後日談として発表した「黄泉の犬」を読んでおくと、一層イメージが伝わってくる。
この本が出版されて以降も、現代人の日常から死はどんどん遠ざかっている。同時に生の手ごたえも弱まっている。昔よりも今の方がこの古い写真集の衝撃は大きくなっている気がする。
・写真家 藤原新也オフィシャルサイト -fujiwara shinya official site-
http://www.fujiwarashinya.com/main.html
メメント・モリの一部がオンラインで見られます。
・黄泉の犬
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004906.html