アメリカよ、美しく年をとれ
アメリカ史の大家 猿谷要教授の最新刊。なんと御年83歳である。渡航が制限されていたため意外にも43歳ではじめて渡米。それ以降、アメリカの大学に在籍して歴史を研究し、日本に大国アメリカの光と影を紹介してきた。自身が体験した戦後の古きよきアメリカから、次第に軍事力を背景にした帝国主義に染まりつつある今のアメリカまでの変遷を、回想で辿る。
共同通信の調査によると、世界で最も悪い影響を与えていると見られている国としてアメリカはイランについで第2位だそうである。過去に学ばず、大義なき戦争を繰り返している。
「おそらくアメリカ人の多くは、今の超大国のまま永遠に続くと考えているかもしれない。ちょうどローマ帝国の人たちと同じように。」
「しかし今のように他の国から嫌われたまま初老を迎えれば、やがて世界に老醜をさらすようなことになりかねない。これだけ世界中から憎まれ嫌われては、決して美しく老いることなどできはしないだろう。」
モンゴル帝国、スペイン、イギリスなどかつての覇権国家も今は小国である。歴史家の目にはそろそろアメリカも全盛期を過ぎて老いる時期であると写っている。老いて何を残せるのか、アメリカを友のように愛した著者は、軍事力より文化力に重点を移すべきだと苦言を呈する。
前半の古きよきアメリカの思い出話が上質のエッセイとして楽しい。建国以来の歴代大統領の逸話や歴史的事件がしばしば言及される。後半は経済大国でありながら貧困層を20%も抱える今のアメリカの実態や、人種問題の複雑さ、為政者たちの驕りぶり、などが語られている。この230年間のアメリカの全体像を遠近感を持って大局で知ることができる内容になっている。
それにしても83歳で、これだけ明晰な文章って書けるものなのか。著者自身が美しく年をとっているよなあと感心してしまう。