Henri Cartier-Bresson (Masters of Photography Series)
・Henri Cartier-Bresson (Masters of Photography Series)
アンリ・カルティエ・ブレッソンは20世紀を代表するフランス人写真家の一人。小型カメラのライカを片手に世界の人々のスナップ写真を撮影し「決定的瞬間」という言葉を作った。この本はその傑作を集めた写真集。洋書。長生きした写真家であったがここに収められたのはすべて白黒写真の時代のもの。約40枚を1時間かけてじっくり鑑賞してみた。被写体の人物に、吹き出しをつけてセリフを書き入れたくなる。ドラマチックだ。
この本の冒頭に2ページほど、アンリ・カルティエ・ブレッソン本人が、自らの写真論を語っている。その中で気になった一節を訳してみた。
「私は「つくりもの」や演出された写真とは無関係だ。敢えて言わせてもらえば、そういう写真はせいぜい心理学的、あるいは社会学的なレベルのものでしかない。事前に準備された写真を撮る写真家と、イメージを発見するために出かけて、それを掴まえる写真家とがいるのだ。私にとって、カメラはスケッチブックであり、直観と自然の道具であり、疑問と決断を、文字通り同時にこなす瞬間の主人である。世界に"意味を与える"ために、写真家は自分自身がファインダー越しにフレームに収める何かと一体感を感じていなければならない。その態度には、集中力と精神の鍛練、感受性と幾何学のセンスが必要である。そして偉大な倹約によってこそ、表現のシンプルさに到達するのである。写真家は、常に被写体と自身に対して最大限の敬意をもって写真を撮らなければならない」
作品を見ていると、被写体と背景という文脈の情報量をいかに簡潔に整理するか、それが切れ味のある写真の極意なのだなと気がつかされる。「決定的瞬間」の元祖の写真は、絞り値を高くした作品が多く、現代のポートレートのように背景をぼかしたものがこの写真集にはほとんどないのである。だから人物スナップであっても時代背景を絶妙に切り取っている。当時の白黒写真は無駄な情報を省くという意味でも、この手法にマッチしたものであったと思う。
どんな作品かをプレビューしたい人は、アンリ・カルティエ=ブレッソン財団に代表作のサムネイルがたくさんある。Googleのイメージ検索でもなぜか大量に見つかる。
・アンリ・カルティエ=ブレッソン財団
http://www.henricartierbresson.org/hcb/home_en.htm
・Googleのイメージ検索
http://images.google.co.jp/images?q=henri+cartier-bresson&hl=ja&lr=lang_ja&um=1&sa=X&oi=images&ct=title
この写真家の「決定的瞬間」として有名なのは、男性が水たまりに向かってジャンプする逆光の写真「behind the saint-lazare station」である。この作品集にも、財団のページにも掲載されている。私は最初この作品を雑誌上で小さなサイズで見た時に、何がいいのか分からなかったのだが、この作品集で大きなサイズで見て、面白さがわかった。
奥にあるポスターに描かれた女性の跳躍と、男性のポーズに最初に注目するといい。奥行きのある左右対称である。同時に水たまりの映りこみが上下の対称を構成している。そのほかにもいくつか対称性を発見できる。偶然のようでいて考えられた幾何学構図なのだ。(しかし、この作品が他の作品と比べて特別優れているわけではないと思うのだが)。
アンリ・カルティエ=ブレッソンの作品には一枚一枚にドラマ性がある。説明がなくても、被写体の人物の生き方や人柄が想像できるものが多い。激動の時代を写した写真家だが、社会的テーマを野暮に掲げる問題意識はまったく感じられない。そうではなくて、それぞれのドラマを背負って生きている人間を、時代の背景と一緒に写すことで、あとは見る者に解釈を任せている。
同時代の日本の写真家、木村伊兵衛とブレッソンは親交があり影響を与えあったと言われる。共通点は多く見出せる。
・木村伊兵衛の眼―スナップショットはこう撮れ!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004923.html
・Yahoo!インターネット検定公式テキスト デジカメエキスパート認定試験 合格虎の巻
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004918.html