家守綺譚
「これは、つい百年前の物語。庭・池・電燈つき二階屋と、文明の進歩とやらに棹さしかねてる「私」と、狐狸竹の花仔竜小鬼桜鬼人魚等等、四季折々の天地自然の「気」たちとの、のびやかな交歓の記録」
貧乏暇有り書き物を生業とする「私」は、今は亡き幼馴染の実家の留守を預かる”家守”(いえもり)の仕事を引き受けた。家守はヤモリと同音である。ヤモリには家を守る呪力があるという迷信がある。家守の「私」もまた、庭のサルスベリの樹と交感したり、掛け軸の中に住む幼馴染の亡霊の訪問を受けたり、日々異界のものたちとの交わりを深めていく。
「私」の日常を綴る形式で、ひとつあたり数ページの短い不思議話が数十本、オムニバスとして収録されている。話はひとつひとつで完結しているのだけれど、すべてが少しずつつながって濃度の高い世界観を形作っている。
これは21世紀の作品だが、設定は百年前だから明治時代の話である。日本古来のアニミズムの世界観に西洋化・文明化の波が少しずつ浸食を始めた頃である。一応は理性のアタマを持つ「私」だけれども、ココロとカラダはまだまだ土着のカミさまたちと一緒に暮らしている。それを当たり前に描いている文体が綻びがなくて巧みである。
この本を読みながら見るといいサイトがある。
・家守綺譚の植物
http://mother-goose.moe-nifty.com/photos/bungaku/index.html
「梨木香歩著『家守綺譚』の中に出て来る植物の写真を集めてみました」
この小説には植物の名前がたくさんでてきて、物語の雰囲気づくりに重要な役割を果たしている。こうして写真で知っておくと想像の再現性が高くなって深く本を味わえると思う。植物をモノではなく精霊に見立てた表現がありありと立ち上がってくる。
文庫版が昨年出たが、この本の風雅を味わうには雰囲気のある装丁のハードカバー版が絶対におすすめである。
・梨木香歩情報部
http://www.yokikotokiku.com/nashikinews.htm
・雷の季節の終わりに
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004801.html
・夜市
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004796.html
・龍宮
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004759.html
・真鶴
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004871.html
・きつねのはなし
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004868.html