心にナイフをしのばせて
「1969年春、横浜の高校で悲惨な事件が起きた。入学して間もない男子生徒が、同級生に首を切り落とされ、殺害されたのだ。「28年前の酒鬼薔薇事件」である。10年に及ぶ取材の結果、著者は驚くべき事実を発掘する。殺された少年の母は、事件から1年半をほとんど布団の中で過ごし、事件を含めたすべての記憶を失っていた。そして犯人はその後、大きな事務所を経営する弁護士になっていたのである。これまでの少年犯罪ルポに一線を画する、新大宅賞作家の衝撃ノンフィクション。」
ジャーナリストの著者は遺族たちに直接取材し、丁寧にその後の28年間の軌跡を追った。遺族たちにとって家族を惨殺された事件の衝撃はあまりにも大きく、一時は家族崩壊寸前まで追い込まれていた。悲しみから立ち直り新しい生活を築いていこうとしても、被害者が生きていたらこんなではなかったという思いが残り続ける。遺族は、慰謝料の支払いはおろか謝罪のことばさえない加害者のことを憎むことさえ避けようとしている。事件を思い出すことが辛すぎるのである。
更正の名の下に加害者の人生を保護し、傷ついた被害者の救済をおざなりにする現在の法制度の矛盾が明らかになる。少年事件では、ほんの数年で加害者は少年院を出所してしまうが、遺族の悲しみは一生続く。「あんなことがあった家」という世間の目が何の落ち度もない遺族に突き刺さるのが痛々しい。
少年の凶悪犯罪という特殊性はあるが、大きな不幸を乗り越えていく家族のドキュメンタリとしてもよく書かれていて内容に厚みがある。遺族の理解の元で調査しており、事件報道の手本となる見事な作品である。
最近も猟奇的な殺人事件がたびたび報道される。特徴的なのは、加害者、被害者がブログを書いていたり、ミクシイを使っていたなど、ネット上に痕跡が発見されること。そのような痕跡を見ると、事件は身近なところで起きているとわかって恐ろしくなる。今後はそうした痕跡を収録した事件取材本がでてくるのだろうな。
こんにちは、橋本さんは引用されただけだと思いますが、序段の「28年前の酒鬼薔薇事件」という表現はミスリーディングを誘うというか、誤りだといえるかと思います。
私はこの本を読んでいませんが、アマゾンの説明を見るところでは、この事件は酒鬼薔薇事件が起こる28年前におきた別の事件について語っているのだと思います。わざわざ、酒鬼薔薇事件という語句を入れているのは日を引くためなのか文中でも言及しているのかは知りませんけど。