姉飼
こんな衝撃の出だしで始まる表題作は第十回ホラー大賞大賞受賞。他に短編3作を併録。
「
ずっと姉が欲しかった。姉を飼うのが夢だった。
脂祭りの夜、出店で串刺しにされてぎゃあぎゃあ泣き喚いていた姉ら。太い串に胴体のまんなかを貫かれているせいだったのだろう。たしかに、見るからに痛々しげだった。目には涙が溢れ、口のまわりは鼻水と涎でぐしょぐしょ、振り乱した真っ黒い髪の毛は粘液のように空中に溢れだし、うねうねと舞い踊っていた。近づきすぎる客がいれば容赦なくからみつき引き寄せる。からみつく力は相当なもので大の男でも、ずりずりと地面に靴先で溝を掘りながら引き寄せられていく。ついには肉厚の唇の内側に、みごとな乱杭歯が並ぶ口でがぶり。とやられそうになるのだが、その直前に的屋のおやじたちがスタンガンで姉の首筋をがつんッ。とやるので姉は白目を剥いてぎょええええッとこの世のものならぬ悲鳴をあげる。
」
猟奇的で、凄惨で、偏執的で、官能的で、救いようがない世界へと読者をずるずると引き込む。
姉は人生の何を象徴しているのか?なんて考える隙を一切与えない底なし沼のような文体が際立っている。ホラー映画には必ずといっていいほどセックスシーンがあったりするものだが、官能とホラーは相性がいいのかもしれない。この作品はスプラッターポルノ小説だともいえる。泣き叫ぶものを切り刻む。
・独白するユニバーサル横メルカトル
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004775.html
作風はこの本と似ている。
最初から最後まで残酷奇譚であるが、徹底しすぎていて、逆にコミカルさも感じられる不思議な作品。こういう作風は、一歩間違うとただの猟奇趣味になってしまうのだが、読ませる文体によって、一級のB級ホラー("B級"はいまや階層ではなくジャンルだと思う)として完成している。