オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史
これはすごい。強烈だ。
日本のアニメが海外で人気があるという話は有名だ。
しかし、具体的にどんなアニメがどんな風に人気があるのか、どれだけの日本人が知っているだろうか。この本にはアメリカの現役オタクである著者によって、アメリカのオタクの実態が生々しく描かれている。日本のアニメや漫画文化の可能性を考える上でとても貴重な情報が満載である。ファンでもないのに研究だけしている学者やジャーナリストがいかに何も知らないか、痛烈な批判と説得力のある解説も見事だ。
アメリカのオタクを語る上でまず「ギーク」「ナード」の違いをまず定義している。
「
僕はナードじゃない。それほど頭がよくないから。テレビゲームを作る側じゃなくて遊ぶ側の人間だ。僕は「ギーク」だよ、どう考えても。ヒューバートが超ナードだとすれば、僕は超ギークだ。
「ギーク」っていうのは日本でいう「オタク」にいちばん近い言葉だと思う。ナードが現実のサイエンスに興味があるのに対して、ギークが夢中なのはサイエンス・フィクションとファンタジーだ。同じ映画を観るのでも、普通の人はエンド・クレジットが出るとさっさと席を立って日常生活に戻るけど、ギークは映画を私生活まで引きずってしまう。
」
オタクは米国でも一般社会で肩身が狭いらしく、特に近年の日本の「萌え」文化には憧れを抱きつつも米国ではチャイルドポルノ規制にひっかかってしまうため、ノりきれないという悩み深い事情でもあるらしい。
驚くのは、日本のアニメや漫画はタイトルも含めて大幅に内容を修正されて放映、出版されているという事実だ。宇宙戦艦ヤマトは米国では「スターブレイザーズ」でありヤマトは「アルゴ」号で、戦艦大和としての過去はカットされている。ガッチャマンは「バトルオブプラネット(惑星戦争)」と改題され、オリジナルには登場しないR2D2みたいなロボットがでてくる宇宙パトロール隊として「スターウォーズ化」されて人気が出た。日本版のストーリーが、輸出時に編集されて、骨抜きにされているものがかなり多く、オリジナルを愛するオタクとして著者は少し憤りも感じているようだ。
トランスフォーマー(超合金)とかスペクトルマン、などという日本では大して人気がなかった作品が大人気だったりするのも面白い。二つの作品を編集でひとつにするケースも驚きだ。「百獣王ゴライオン」と「機甲戦隊ダイラガー」は二つを混ぜて「ボルトロン」というヒーローになっている。3つ以上のアニメを合成した作品もある。私たちが見た作品がそのまま流行っているわけではないのだ。
さらにアニメヒーローはオタクだけでなく、ギャングやマフィアにも人気だというから驚く。危険地帯では派手なアニメのシャツをきて麻薬を売買する、いかついチンピラたちがうろうろしているらしい。どういう雰囲気なんだろうか。
日本では間違って伝えられている人気状況もある。ラルク・アン・シェル(ガンダム)、TMレボリューション(るろうに剣心)はアニメ主題歌のバンドとしてのみ有名。ドリカムや宇多田ヒカルが米国で人気があるなんて嘘。米国人には相手にされていない。パフィーはアニメキャラとして大人気である、など。
著者は本当にアニメ好きが高じて日本に住んでオタク三昧な暮らしを楽しんでいる。日米のアニメ・マンガ文化の解説者として素晴らしい資質を持っていると感じる。くだけた文体だが分析と評論も見事だ。米国サブカルチャーを日本に伝える本として、極めて高い価値のある一冊だと思う。
・模倣される日本―映画、アニメから料理、ファッションまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003155.html
・宮崎アニメの暗号
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002119.html
・<美少女>の現代史――「萌え」とキャラクター
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001957.html