雷の季節の終わりに
やってしまった。
電車乗り過ごしである。
終電だったので3つ先の駅からタクシーで帰るはめになった。
寝過ごしたわけではない。年に一回あるかどうかの本に熱中しての読み過ごし。
すべてはこの本のせいだ。
デビュー作「夜市」で見せた才能の片鱗が、この初長編でさらに開花している。恒川 光太郎の作品は今後全部買う作家リストに入れることにした。代替不可能な魅力がある。
「異世界の小さな町、穏(おん)で暮らす少年・賢也。「風わいわい」という物の怪に取り憑かれている彼は、ある秘密を知ってしまったために町を追われる羽目になる。風わいわいと共に穏を出た賢也を待ち受けていたものは-?」
Web2.0はWebのあちら側とこちら側の話だが、これは世界2.0、こちら側世界とあちら側の異界の話である。それは天上にあるわけでも、地の底にあるわけでもなく、隠れた出入り口を通じてこの世界と連続している。
異界モノはいろいろあるが、世界観への入りやすさがポイントだと思う。ミネラルウォーターの硬さみたいなもので、硬水は身体になじみにくい。軟水では物足りない。この作品は、最初の口当たりが軟水でごくごく飲んでいるうちに、いつのまにかどっぷり硬水に身体がなじんでしまっている自分に気がつく、そんな感じだ。
日本人の原風景をモチーフにした親しみやすい情景描写とともに、長編ならではの構成の工夫もあって、最後まで飽きさせない。今年書評した同系統では「安徳天皇漂海記」と並ぶクラスの傑作だと思う。
・夜市
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004796.html
・龍宮
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004759.html
・安徳天皇漂海記
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004720.html
・異国の迷路
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004529.html
・悪霊論―異界からのメッセージ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004773.html