スターメイカー
「
肉体の束縛を離脱した主人公は、時空を超え、太陽系の彼方へと宇宙探索の旅に出る。棘皮人類、共棲人類、植物人類など、奇妙な知性体が棲息する惑星世界。銀河帝国と惑星間戦争、生命の進化と諸文明の興亡。そこでは星々もまた、独自の生を営む生命体であった。そして、銀河という銀河が死滅する終末の時がやって来る。星々の精神と共棲体を築いた主人公は、至高の創造主「スターメイカー」を求めて旅立つが…。宇宙の発生から滅亡までを、壮大なスケールと驚くべきイマジネーションで描いた幻想の宇宙誌。そのあまりに冷たく美しいヴィジョンゆえに「耐えがたいほど壮麗な作品」(B・W・オールディス)と評された名作。
」(アマゾンのデータベースから引用)
普通の人間の想像力では大風呂敷を広げるにも限度がある。思いつく限りのスケールの大きな話をしてみろと言われても、人類の歴史だとか、地球の成り立ちだとか、せいぜい150億年前のビッグバンくらいが限界だろう。
人間の想像の大きさを競う種目があったら、この作品はギネスブックに載っておかしくない。太陽系を超えて、銀河を超えて、5千億年の時空を超えて、あらゆる生命の営みを観察し、全宇宙の知生体と意識を統合し、やがて宇宙の終焉間近に、万物の創造主スターメイカーの意図を知るまでの、果てしなく壮大な物語である。数ページで数億年のスケールに圧倒される。
登場人物はほぼ「わたし」一人だ。「わたし」はテレパシーを通じて他の星の知的生命体の精神と共鳴し、統合されて「わたしたち」になる。統合によってその精神は覚醒レベルを高めていき、すべてを見渡す究極の集合知性へと発展していく。その高みから全宇宙を俯瞰する。
登場人物がいないためにそこに人間的ドラマはない。星々の多様な形態の生命の興亡史を歴史家として叙述しているのみだが、読み進むにつれ「わたし」のビジョンがどんどん大きく、普遍的なものになっていく加速感が読むものをひきつける。SFというより哲学書といったほうが正しいのかもしれない。
1930年代(70年前!)にオラフ ステープルドンによって書かれた伝説的なこの作品は、後世のSF作家や科学者に多大な影響を与えたと言われる。世界の階層性や、精神的な統合への意志、進歩の概念、唯一の創造主の存在など、キリスト教、西洋文化的な要素を強く感じる。普遍を描いているので古さは感じない。フリーマン・ダイソン、ボルヘス、クラーク、バクスターらの絶賛の言葉は今も活きている。