死刑のすべて―元刑務官が明かす
元刑務官が明かす死刑現場のリアリティ。衝撃の一冊。
「
囚人の体は、ロープを軋ませる大きな痙攣の後、手足がグイッと引っ張られるような痙攣が来た。体重が死までの時間と関係があると、二十数回、執行人として立ち会った看守部長が言う。この男は六十五キロだから、二十分近くかかるのだろう。
」
新しい死刑囚が入所すると刑務官は、自然と囚人の首に注意が行ってしまうそうだ。その首はやがて彼ら自身が吊るさねばならない首である。死刑囚と長い時間を過ごす刑務官は自然と彼らと心を通じ合う関係になる。
死刑囚の中には執行時には罪を反省し、更正して真人間に戻っているケースもある。任務とはいえ、執行時に囚人が暴れないように身体を押さえつけ、足を縛り、苦しみながら息絶えるまでを注視しなければいけない彼らの苦悩は深い。思い悩んで自殺してしまう刑務官もいるという。
死刑執行の現場を、劇画や短編小説という表現を織り込んで、強烈に生々しく描いている。死刑は囚人にとって事前の告知はなく、ある朝に突然執行されること(昔はそうではなかったそうだ)、奥さんが妊娠中だったり家族が病気で入院中の刑務官は執行担当を免除されることが多いこと、死刑囚の1日のスケジュール(たまにテレビ視聴が許可されている)内容の公開などなど、知らなかったことばかりだ。
刑務所の官僚組織についても大変詳しく、批判的に語られる。出世のことばかりを考えるキャリア出身官僚と、現場の改善を考えるノンキャリアの対立。死刑囚に弱みを握られ、やりたい放題にさせてしまう看守の腐敗。高官の接待攻勢や官舎での奥さん同士のつきあい方など。そこには極めて官僚主義的な刑務所業界の姿がある。
凶悪事件で最高裁で死刑が判決されると、その問題は、結論が出て終わったと私たち一般人は考えるものだが、刑務官にとってはそこから先に、苦悩の日々が待っている。制度がある以上、誰かがやらなければならない仕事である。悲しい仕事である。
国家権力が人を殺すという死刑が必要かどうかの考察も書かれている。先進国では死刑を廃止する国が増えている。日本では凶悪事件があるたびに世論は割れる。まだ当面、廃止というわけにはいかない気がする。刑務官の苦労は続きそうである。