安徳天皇漂海記
これは凄い小説だ。第19回(本年度)山本周五郎賞受賞作品。
「二位殿やがていだき奉り、「浪のしたにも都のさぶらふぞ」となぐさめたてまつって、千尋の底へぞ入給ふ」(平家物語)。1185年、壇ノ浦の戦いで敗北が確実になった平家軍の船の上から、祖母の平時子に抱かれて、8歳の安徳天皇は三種の神器とともに、海に身を投げて崩御した。
平家の滅亡から二十年の歳月が流れて、源頼朝の息子で12歳の少年、源実朝は鎌倉幕府の第三代征夷大将軍に就任していた。この物語は、安徳天皇と源実朝の二人の少年を軸にしてすすんでいく歴史ファンタジーである。第二部のマルコポーロ編では、物語は海を越え、元帝国クビライ・カーンをも巻き込んだ世界スケールへと発展していく。
諸星大二郎的な、日本神話ベースのおどろおどろしいイメージが好きな人にはたまらない作品である。歴史の波を漂う安徳天皇の魂が、同じく滅ぼされるものたちの魂と呼応して、幻想的なドラマを織り成す。
これは日本神話と平家物語と東方見聞録の壮大なリミックスといえる。深く味わうには、古事記と平家物語が予備知識としてあったほうがよいが、原典を読むのが面倒であれば、諸星大二郎の漫画「海竜祭の夜」がおすすめ。祟る神としての安徳天皇がでている。
歴史系、SF系の小説が好きで、まだ読んでいないなら、強い自信を持っておすすめ。
・古事記講義
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003755.html