驚異の戦争〈古代の生物化学兵器〉
女性科学史家が、古代から中世の古文書を研究し、数千年前の戦争の中でも、生物化学兵器が世界中で使われていたことを立証しようとする。化学や細菌学の知識がない時代であっても、人類は、生物化学的な殺傷能力を巧妙に利用し、敵と戦ってきたという。
古代の生物化学兵器の例。蛇の毒を塗った矢、下痢を起こす植物成分での飲み水の汚染、兵士の死骸を投石器で城壁越しに投げ込む疫病攻撃、ペスト菌の付着した衣類の投げ込む作戦、退却時に砦に毒入りハチミツを残す戦術、サソリ爆弾、原始的材料で作った粘着力のあるナパーム弾攻撃など。「生物兵器の「生物」としては、サソリ、スズメバチ、ノミ、シラミ、ネズミ、イヌ、ウマ、ゾウなど、ほとんど、あらゆる生き物が列挙される。」。
ゾウはブタを苦手とするそうである。ゾウ軍団に対しては、火をつけたブタを突進させ、軍団をひるませたらしい。敵兵の洞窟には凶暴なクマを突入させた。動物受難の時代である。毒矢には蛇や植物の毒と一緒に人間の排泄物も塗られていた。こうすることで、毒を生き延びてもさまざまな感染症で敵を殺傷する確率を高めていた。性病持ちの娼婦を、敵の兵士のいる場所へ送り込んだり、美しい「毒の乙女」を将軍のもとへ贈ったりした。この毒の乙女というのは科学的根拠は怪しいのだが、少量の毒と解毒剤を毎日摂取することで、毒性を持つに至った女性のことである。彼女と交わるものはその毒におかされて死んでしまう。
こうした化学や細菌の威力は、悪魔や神の仕業と理解されていた。原理はわからなくても、強力な効果は知られていた。犠牲者は悲惨に死ぬ。毒殺を恐れる王たちは侍医に万能の解毒剤を調合させ、毎日飲んでいた。同時にそうした兵器を使うことは、道徳的によくない不名誉なことという認識が共有されていたという。だから、表の歴史書には、具体的な記述が乏しいのだと著者は分析している。
そして現代における生物化学兵器との類似性が指摘される。今ならば一層悲惨な結果を招くことになると警鐘をならす。
この本を読んでいて思い出したのが、好きな漫画家 星野 之宣の「コドク・エクスペリメント」である。コドクとは蠱毒のこと。つぼの中に毒虫をたくさん入れ、戦わせて、最後の一匹になるまで待つ。生き残りの一匹からは、最強の毒性を抽出できる、という古代中国に伝わる毒の開発方法。この漫画では宇宙の凶悪な生物たちを集めて、ひとつの惑星に置き去りにし、惑星規模でのコドク実験が行われる。
・コドク・エクスペリメント 1
とある惑星に荷物を無人で下ろすはずが、上官の陰謀と惑星変動により置き去りにされた乗組員たち!20年後、その惑星は…。巨匠の描く宇宙SF。新装版。
・私の好きな漫画家たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000741.html
・感染症は世界史を動かす
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・インフルエンザ危機(クライシス)
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古代の生物化学兵器という言葉で、
自分は、同じ星野之宣でも、短編の
『ボルジア家の毒薬』
を思い出したのです。
それだけ。