SAS特殊任務―対革命戦ウィング副指揮官の戦闘記録
圧倒的なドキュメンタリである。文句のつけようのない傑作。今年読んだ本のベスト10には入ることになるだろう。(出版は2000年だが)。
著者のギャズ・ハンターは、陸軍からSAS(イギリス陸軍特殊空挺部隊)に志願入隊し、20年間勤務して、ノンキャリア最高位とされる一等准尉にまで上り詰めた筋金入りの特殊部隊員である。他の隊員たちからも「敵にまわしたくない人物」として恐れられているという。その理由はこの本を読めばわかる気がする。たとえていうなら、生きたゴルゴ13なのである。
その半生において、北アイルランドの対IRA戦、コロンビアの麻薬撲滅作戦、ザイール内戦での英国大使館警護、東ドイツでのスパイ作戦、米国でのカルト教団篭城事件、シエラレオネでの人質救出作戦、そして本書のクライマックスであるアフガン戦争など、幾多の死線をくぐりぬけてきた。
過酷な訓練、戦闘の恐怖、戦慄の殺人、残酷な拷問、非情な現場判断、突入の緊張感、九死に一生の瞬間、チームの連帯感、統率者の孤独、別れ、戦士のつかの間の休息。生々しいシーンの描写が卓越した文章力をもって語られる。ぐいぐい引き込まれると同時に眼をそむけたくなる行もある。映像以上にリアリティを感じさせる本だ。
やんちゃな子供時代から、そうなるべくして陸軍に入り、厳しい試練を乗り越えてのSASへの入隊、そして20年間の特殊部隊での職業生活。一兵卒から指揮官へとのぼりつめる一人の男の自伝としても興味深く読める。著者はリーダーとはどうあるべきかを禁欲的に追い求め、自分をその型に押し込めて生きている。使命のためにすべてを投げ出す生き様は、最初は共感も覚えたが、読み進むにつれ、畏怖へと印象が変わった。優秀なリーダーであると同時に、優秀すぎて、恐ろしい人物であると思う。テロと戦う舞台に彼がいるのは頼もしいが、友人にはなりたくない、という印象だ。
経営の意思決定や組織のリーダーシップのありかたを考える上でも参考になる一冊であると思う。読み物として最高に面白いので、自分の知らない世界を知りたいというだけの読者にもおすすめ。現実は小説を超えている。
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