実験経済学入門~完璧な金融市場への挑戦
統計データを解析する計量経済学に対して実験経済学がある。実験室で被験者集団に市場を模した取引を行ってもらい、どのような現象が起こるかを調査するような研究手法をとる箱庭経済学である。モデル化された経済は現実の経済とは異なるため、長い間、本流の経済学からは軽視されてきた。普遍性に疑いがあると考えられていた。
しかし、実験経済学では、平均的な人間の普遍的な行動だけではなく、人間の個人的な「選好」を対象にすることができる。個別のモノやモノの組み合わせに対する個人の相対的な価値のことだ。「ブランド」や「オプション」、そして「知識・情報」が経済において持つ意味を、個人の選好から光を当てることができる興味深い研究領域である。市場実験による金融市場分析を行ったヴァーノン・スミスが2002年度のノーベル経済学賞を受賞するなど、近年、再評価が進んでいる。
需要と供給は自由市場に任せておけば、自動的に最適な均衡に落ち着く。経済学の常識であるが、被験者同士が交渉で売買を行う実験を行ってみると、理論値よりも少し低い価格に均衡した。なぜか?。
「ほとんどの人は売り手の経験よりも買い手の経験の方が多く、価格を引き上げる交渉よりも引き下げる交渉の方が得意であるからだ。」。交渉のルール、当事者の知識、交渉の能力が、この取引ゲームに大きな影響を与えている。
株式市場では「サンスポット均衡」と呼ばれる不思議な傾向がある。これは太陽の黒点移動と景気の変動がたまたま似たような周期を持つため、太陽の黒点が景気を左右するという理論があることに関係がある。この理論は根本的に間違っているのだが、信じているトレーダーが少数だが存在するために「自己実現的予言」として機能してしまっている例だ。トレーダーには自分の持つ情報を無視して「群れの後追い」をするものも多いため、さらに傾向は強化されてしまう。「テクニカル分析」も似たような存在である。
従来の経済学は、平時の市場の均衡や景気循環を説明できても、突発的なバブルや暴落を十分に説明することができなかった。実験室での株式取引ゲームやオークションゲームでは、主観を持つ人間だからこそ取り得る非合理な選好がたくさん発見されている。そして人間同士の関係性が、情報カスケード効果を促進し、予測不能な大きなバブルを生じさせたりもする。
「この世は皆オプション」とも述べられている。オプションとは市場に参加するプレイヤーたちがとりえる選択肢のことである。私たちはモノの価値だけでなく、潜在的に取りえる取引上の選択肢までをも考えに入れて行動している。期待と不安、錯覚、知識といった個々の人間のバラバラな選好が、経済全体の大きな流れにカオスとバランスを発生させる。計量経済学が平均的、普遍的、連続的な市場を分析するツールだとすれば、実験経済学は、個人的で、特異で、非連続な市場を分析するのに有効な新しいツールといえそうである。
こうした実験経済学の環境として、早稲田情報技術研究所は、カブロボというサービスを運営している。既に数千種類の株式取引プログラムが開発されている。
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