メタデータ技術とセマンティックウェブ
いまネット技術でキーワードの「Web2.0」とも関係が深いメタデータとセマンティックウェブについて書かれた研究書。主に理系の学部生向けレベルの入門の難易度。RSSやWebサービスのAPIをいじるのは楽しいが、より深いレベルで技術を理解したい人も増えたはずの今、タイムリーな刊行(2006年1月出版)。
目次:
序章 メタデータのもたらすものとは
第�T部 メタデータ
第1章 メタデータアーキテクチャ
第2章 標準化の流れ
第3章 メタデータ基本技術とその背景
第�U部 セマンティックウェブ
第4章 セマンティックウェブの意義
第5章 メタデータ記述言語RDF
第6章 オントロジ記述言語OWL
第�V部 メタデータ応用
第7章 デジタル時代のメタデータ流通
第8章 NIメタデータ流通システム NI日本ノード構築にむけて
第9章 電子政府
第10章 学術情報流通とメタデータ
第11章 新聞社のメタデータ技術への対応 NewsMLを中心に
第12章 サーバ型放送とメタデータ
第13章 デジタルシネマのメタデータ流通
各章では主要技術の概略や応用事例が簡潔にまとめられている。各技術の詳細を知りたい場合は別の専門書が必要だが、コード例や概念図などが挙げられて、”感じ”はつかめる。
いくつか参考になる考え方を知った。
ひとつは、メタデータに共通の要求条件とは何か。
メタデータに共通の要求条件:
1 更新性 常に最新の状態を示すこと
2 常時性 いつでも即手に入ること
3 同報性 多数の人が同時に手に入ること
4 一覧性 一度に見られること
5 ターゲット適合性 役に立つときに役に立つ人が使えること
6 コンテンツ密着性 いつでも取り出せること
このリストは、そのメタデータ技術がイケてるか、イケてないか判断する材料として使えそうである。また、メタデータの用途種別として、制作、存在、検索、権利・許諾、流通・配信、利用・評価という6種類があるという表も参考になった。メタデータの設計に使える知識である。
そして流通の前後では事前に静的に付与されるデータと、事後に動的に付与されるデータという分け方もあった。私は機械が付与するものと人間が付与するものという分け方をしていたが、こちらの方が意味がある分類だと納得。
この本には、実にさまざまなメタデータが登場するが、今のところWebで成功しているのはRSSのように記述が簡単で構文解析が容易なライトウェイト系と言えると思う。より本格的ではあるはずのMPEG7やOWLのフルバージョンなどヘビーウェイト系は流行の兆しがない。
項目が多くて階層が深い設計のヘビー系は、表現力は豊かな分、作成コストも学習コストも高い。あまりに厳格な記法では、ネット上のラフ(いい加減)な実装系が処理できない。ライトでラフでは信頼性が疑わしいと長い間考えられてきたが、最近はネット上の市場原理、自然淘汰で信頼性の問題も解決できそうな希望も見えてきた。
少数の専門家が中央集権的に付与するメタデータの時代から、多数の一般ユーザが分散的に付与するメタデータの時代になったように思える。流通ボリュームの観点からすれば、現在は勝手にユーザがメタデータをつける「勝手メタ」の時代である。本書のような「正しいメタデータ」本と並んで、「勝手メタ」の扱い方の研究本もそろそろ必要なのではないだろうか。
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