火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者

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・火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者
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実におもしろい脳についてのエッセイ集。

トゥレット症候群の外科医は、普段は身体をねじり物を物をいじりまわす衝動に抗うことができないが、手術中は発作が止み、一流の手術を施せる。

サヴァン症候群の画家は数秒で見たものを記憶し精確に絵に描ける特異な能力を持つ。

30年前の故郷の記憶にとらわれた画家はその過去世界の記憶の強制想起に悩まされ、現実と過去との二重の人生を生きる。写真的な記憶から描いた風景画は高く評価され故郷の名誉市民となった。

事故で脳を損傷した全色盲の画家は、白と黒しか見えなくなった。苦悩の果てに白黒の世界を更なる芸術に昇華させ、色のある世界に戻るつもりがなくなった。

30年間の全盲状態の後、手術で視力を取り戻した患者は、頭の中のイメージと視覚イメージの対応がとれず、「見えているが、見えない」。

極端な健忘症患者は、注意が途切れると数分前のことも忘れてしまう。

映画「レナードの朝」の原作者としても知られる脳神経学者のオリバー・サックスが、7人の脳の機能障害患者の人生を語った医学エッセイ集。障害はハンディだが、ときに超人的な能力と創造性の源になる。著者は患者の病を欠点としてではなく、ユニークな個性の一部として見ている。

博士号を持つ自閉症の動物学者は自ら発明した抱きしめ機械に癒されながら、研究開発の仕事をすすめていく。研究対象の動物の行動は理解できても、人間の心の動きがわからない。感情のドラマが把握できないから物語を味わうことも出来ない。感情とはどういうものか、経験から得た知識を使って他者の心を意識的にシミュレーションする毎日。彼女は自分は「火星の人類学者」みたいな気分で社会生活を生きているのだと言う。

世界の認識方法には多数のバリエーションがありえて、健常者を名乗る者たちの認識もそのひとつに過ぎないことがわかる。「その他大勢」の私たちを冷静に眺めている火星の人類学者たちの持つ世界観が、古い世界観を壊し、新しい変化を生み出していく原動力にさえなるのではないかと思った。

・脳のなかの幽霊
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003130.html

・脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003736.html

・共感覚者の驚くべき日常―形を味わう人、色を聴く人
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000533.html

・脳のなかのワンダーランド
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・マインド・ワイド・オープン―自らの脳を覗く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002400.html

・脳の中の小さな神々
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001921.html

・脳内現象
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001847.html

・快楽の脳科学〜「いい気持ち」はどこから生まれるか
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・言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000718.html

・脳と仮想
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002238.html

・喪失と獲得―進化心理学から見た心と体
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002945.html

・ひらめきはどこから来るのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001692.html

・神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003679.html

・脳はいかにして“神”を見るか―宗教体験のブレイン・サイエンス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000134.html

・音楽する脳
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004148.html

・天才と分裂病の進化論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001298.html

・天才はなぜ生まれるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001320.html

・ユーザーイリュージョン―意識という幻想
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001933.html

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脳神経学者のオリバー・サックス(「レナードの朝」の原作者)さんが、7人のとっても特殊な脳障害の患者さんたちとのかかわりの一部をエッセイとして紹介したもの。これは、面白い。 面白いだけじゃなく、その観察が科学的な吟味の基本を忠実に紹介しているという点でも... 続きを読む

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このページは、daiyaが2006年3月 6日 23:59に書いたブログ記事です。

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