イヴの七人の娘たち
今日の60億人の全人類には、たった一人の”母”がいるという。
母系でのみ受け継がれるミトコンドリアDNAを解読すると、15万年前にアフリカの地で生まれたたった一人の女性「ミトコンドリア・イヴ」が人類共通の祖先であるという有名な学説である。生殖のたびにDNAは複製される。ミトコンドリアDNAの突然変異の確率は安定しているので、現在の子孫のDNAと比較すれば、おおよその生存年代を測定できる。世界中の現代の人類のDNAを集めて分布を調べることで、その骨を残した人間がどこに住んでいた人間なのかも判明する。
現代ヨーロッパの6億5千万人のDNAを解析すると、4万5千年前から1万年前の異なる時代、異なる地域に生まれた7人の女性の誰かにつながることが分かっている。この本は、その7人のミトコンドリア・イヴの娘たちの世代の物語である。
最初のイヴの娘はギリシアで生まれたアースラ。アースラの一族は全ヨーロッパへ広がり、ネアンデルタール人を絶滅に追い込んだ。第2の娘アースラは2万5千年前にマンモスと生きた。第3の娘のヘレナは2万年前の最終氷河期に地中海沿岸で暮らした。科学的データに基づいて、7人の娘たちの人生がフィクションとして語られる。
イヴの娘たちはおそらくそれぞれの社会で特別な存在ではなかった。ふつうの女性としてふつうに生きた可能性が高いらしい。もちろん自分から始まる家系が、後世の人類の大部分を生み出す重要な位置にいることなど知る由もなかった。
イヴの娘たちは遺伝学上、何が特別なのか。それは彼女らのミトコンドリアDNAが広く現代の人類に共有されていることである。イヴの娘たちの世代には他にも女性はいっぱいいた。その人たちも子供を産んでいただろう。しかし、何万年もの間に人類が複雑に交雑する中で、少数のイヴの娘たちのDNAが勢力を広げていった結果、今の人類のDNAから辿れる家系は彼女らだけのものになってしまったということだ。
日本人、アメリカ人、フランス人などというが、DNAの観点では分類の意味がない。純粋な民族という概念はナンセンスだ。全員が完璧な混血である。それにも関わらず世界で33、ヨーロッパで7の少数の母系のDNAが、いまの私たちの中にも生き残っているのだ。それは、母系の文字通り、へその緒でつながり、抱きしめ、乳を与えた女性たちの愛で結ばれた大きな家系である。もっともっとたどれば一人のグレートマザー「ミトコンドリア・イヴ」がいる。
イブの娘らに共通する点が2つ。1つめは娘を産んだこと。ミトコンドリアDNAは女系にのみ引き継がれるからだ。そして、2つめは、二人の娘を産んでいること。これは少しわかりにくいのだが、母系のみのDNA系図を描いてみれば分かる。今生きる女性は無数にいる。だが母親、祖母、曾祖母と系を上へたどればたどるほど、枝の数は少なくなり、やがて、たった二つの枝が一つになる世代があるはずだ。そこにイヴたちはいる。
この本は研究が成功するまでの経緯と、時代考証、科学考証のもと想像力を発揮して書かれたイヴの娘たちの7編の物語からなる。私たちは何者か?という普遍的な疑問に、ひとつの答えを提供してくれる興味深い研究である。
オックスフォード大学の人類遺伝学教授の著者ブライアン・サイクスは、化石化した古い人骨からDNAを抽出することに成功した同分野の第一人者。同教授は自分の祖先がどのイヴなのかを調べる研究ビジネスを運営している。
・OXFORD ANCESTORS : Explore your genetic roots - DNA sequencing, Professor Sykes, Adam's Curse, Family Tree Searches, Your Ancestry DNA analysis, tracing ancestors
http://www.oxfordancestors.com/
日本人向け解説もある。95%の日本人には9人の”母”がいるそうだ。
・Sony Magazines -- OFFICIAL WEB SITE --
http://www.sonymagazines.jp/mmt/200111080700.html「
あなたのDNAも調査してもらえます!
日本人の95%は、9人のDNAの母から生まれています。
あなたは誰の子どもなのか?
→【DNA母系図】
---ミトコンドリアDNAを調べて、あなたもDNAの母を知ることが可能です(有料)。ご希望の方は、「オックスフォード・アンセスター」(http://www.oxfordancestors.com/)へ直接、お申し込みください。日本語書類の添付された「調査キット」が届きますので、指示に従って提出してください。
」
トラックバック(0)
このブログ記事を参照しているブログ一覧: イヴの七人の娘たち
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/1944