自爆テロリストの正体

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・自爆テロリストの正体
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9.11同時多発テロの実行犯の実像を追ったドキュメンタリ。実行犯家族への取材や原理主義指導者への直接インタビューなど、実地の取材で肉付けしていて興味深く読めた。自爆テロは自らの命を犠牲にする行為であり、無宗教の日本人にとっては理解しがたい境地である。その心理状態がどのように形成されていったのかを著者は分析していく。

「神の道のために殺された者を、けっして死者と考えてはならない。いな、主のみもとで扶助を賜って生きているのである」(コーラン)

「神とこの使徒たちの言いつけを守る者は、神が恩恵を垂れたもうた預言者たち、誠実な人たち、殉教者たち、善行者たちの仲間にはいる」(コーラン)

9.11テロは、過激なイスラムの聖戦というイメージが、メディアを通して印象づけられている。しかしイスラム教自体は平和を愛する温和な宗教である。イスラムの経典コーランには上のような殉教の意義についての記述はあるものの、飽くまで歴史的文脈の中での記述に過ぎない。決して現代において殺人を肯定しているわけではない。

テロを正当化しているのは一部の過激な原理主義者たちに過ぎない。しかも、原理主義の真のリーダーたちは自爆テロを指示しただけであった。自らの命を捧げたのは生粋のイスラム原理主義エリートではなく、改宗者が多かったという。

テロの実行犯には欧米での生活や留学経験のあるものが多い。フランスなどヨーロッパ国籍のものもいる。彼らは生まれついてのイスラム教徒ではなく、欧米文化とイスラム文化の狭間で育ち、差別やアイデンティティの問題に悩まされた若者であった。

「貧困の中で世の中の不平等に絶望し、テロに走った」という見方は誤りで、「彼らがテロを起こした決定的な理由は貧困ではなく、自己の内面に起きた変化だ」と著者は分析する。

実際、実行犯の多くは貧困な家庭に育ったわけではなく、比較的恵まれた環境に育ったものが多かったようだ。大卒も多い。だが何らかの自身の弱さに起因する挫折や、欧米社会からの差別的待遇への絶望を募らせたものが多かった。俗世間的な意味での成功者がいない。「そこそこの教育は受けたものの、その後社会で進むべき道を失った人々」であった。著者のことばでは「大卒の出来損ないこそがテロリストになる」。

若者に共通の「自分探し」の悩み、アイデンティティの悩みを抱いた彼らに、システマチックな布教と洗脳を施したのがアルカイダであったとされる。感受性の強い若者を選び、巧妙に心の弱さにつけこんで、殉教の意義を信じさせる。

実行犯は、にわかづくりのテロリストなので、ゴルゴ13のようにはいかないと著者は批評している。事実、9.11前に捕まってしまったものもいれば、他のテロでは自爆前に逃亡したものもいた。

9.11テロは単なる犯罪なのであって、イスラム教世界とキリスト教世界の宗教戦争などと、大騒ぎすると、原理主義者の思うつぼであると著者は警告している。オウム真理教のテロを「仏教徒のテロ」と呼ぶのと同じくらい的外れな視点だという。

9.11テロを宗教と切り離して考えるべきなのかは、私にはまだよくわからない。宗教が根源的にもつ危うさは別に考えるべき問題である気がする。だが、実行犯の出自や生育環境を取材した情報を見る限り、一部の原理主義指導者に、若気の至りがうまく利用されたのが、あのテロの現場レベルの実状であることがうかがえる。オサマ・ビン・ラディンやブッシュがいう聖戦や悪の帰結によるものではないことがわかる。

実行犯の妻たち、親や兄弟への積極的取材なども生々しい。

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このページは、daiyaが2006年1月10日 23:59に書いたブログ記事です。

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