しあわせの理由
例によってグレッグ・イーガン作品。
「
12歳の誕生日をすぎてまもなく、ぼくはいつもしあわせな気分でいるようになった…脳内の化学物質によって感情を左右されてしまうことの意味を探る表題作をはじめ、仮想ボールを使って量子サッカーに興ずる人々と未来社会を描く、ローカス賞受賞作「ボーダー・ガード」、事故に遭遇して脳だけが助かった夫を復活させようと妻が必死で努力する「適切な愛」など、本邦初訳三篇を含む九篇を収録する日本版オリジナル短篇集。
」
TRONの開発などで有名な坂村健東京大学教授があとがきでグレッグイーガンのすすめを熱烈に書いているのも付加価値。
この短編集の基底にあるテーマを探すとすれば「アイデンティティ」だろう。しあわせの理由の主人公は、異常な化学物質の分泌によって、しあわせな人生を生きているが、あるとき、その分泌が止まる。自分が本当は何が好きなのか、その理由は何なのか、を考える内容だ。実のところ、私たち自身、自分が何かを好きな本当の理由は不明だろう。何かが好きで何かが嫌いだという組み合わせこそ、アイデンティティの基本なのだと気がつかされる。
そしてグレッグイーガンは、あるときは脳の物質への還元によって、あるときは量子論的不可能性によって、あるときは個々の意識の還元不能性によって、幾重にもアイデンティティを崩壊させていく。「私」という問題の不可思議さを味わえるおすすめの一冊。
グレッグ・イーガンのサイトがとても充実していることに最近、気がついた。
・Greg Egan's Home Page
http://gregegan.customer.netspace.net.au/
作品に登場する科学理論の解説や、一部作品の全文公開。
・Quantum Soccer
http://gregegan.customer.netspace.net.au/BORDER/Soccer/Soccer.html
短編「ボーダー・ガード」に登場する「量子サッカー」をプレイすることができる。
収録作品の個人的ベスト3は以下。
1位 しあわせの理由
2位 適切な愛
3位 闇の中へ
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