犯罪は「この場所」で起こる
犯罪のほとんどは入りやすく見えにくい場所で発生している。
それはなぜなのか、どうしたら犯罪に合わずに済むか、の最新の研究。
■原因論から機会論へ、処遇から予防へ
従来の犯罪対策の主流は原因論にもとづいていた。犯罪者がなぜ犯罪を起こしたのか、犯人の生い立ちや環境を調べ、その原因を排除するような施策を立案してきた。マスメディアも犯罪の動機や原因の解明に躍起になっている。しばしば、父親の不在やテレビゲーム、リストラ、ストレスが原因だなとと結論されるが、そうした要因はどこにでも、誰にでもある、ありふれたものであって、対策の施しようがないことが多かった。
新しい機会論ベースの犯罪対策では、犯罪の発生を経済学的に分析する。
「
つまり、潜在的な犯罪者は犯罪機会を欲しがる者(需要者)であり、潜在的な被害者は犯罪機会を与える者(供給者)なので、実際に怒る犯罪の量は、犯罪機会の需要(個々人の需要量の総和)が一致するところで決まると考えるのである。
機会の需要曲線が右下がりになるのは、犯罪機会を利用するコストが高い場合には、犯罪者は犯行をためらいがちである(機会需要量が少ない)が、逆にコストが低い場合には、犯罪に手を染めやすい(機会需要量が多い)と考えられるのである。
」
これは犯罪機会の供給サイド(被害者)に注目する理論であり、犯罪者の処遇を施策とするより、予防によって犯罪の機会を減らそうとする考え方だ。特に犯罪の起こりやすい場所を減らすことがこの本のテーマである。大阪小学校児童殺傷事件の犯人は「門が閉まっていなければ入らなかった」と供述している。場の性質が犯罪発生にかかるコストを左右する。
■犯罪に都合の悪い場所、良い場所:抵抗性、領域性、監視性、
「時間がかかる」、「技術がいる」、「見られている」、「見つかりやすい」場所では犯罪には多大なコストがかかる。逆に「手軽にできる」、「死角になっている」、「見逃してもらえる」環境ではコストが低くなる。コストによって犯罪機会の需要は多くなったり、少なくなったりする。
犯罪発生に関係する要因として次の3要素が挙げられていた。
抵抗性 犯罪者から加わる力を押し返そうとする力 恒常性、管理意識
領域性 犯罪者の力が及ばない範囲を明確にすること 区画性、縄張意識
監視性 犯罪者の行動を把握できること 無死角性、当事者意識
この中で特に領域性と監視性が場所に関わる要因である。言葉だけでは分かりにくいので、どのような場所が犯罪が多発するのか、写真入りで現場を紹介している。大きな遊具があって全体を見渡せない公園や、入り口に大きな樹木があって教員室から外部からの侵入者を発見できない学校など、入りやすく、見つかりにくい隠れた場所が危ない。
ブロークン・ウィンドウズ(割れた窓ガラス)と呼ばれる犯罪理論もある。落書きが多かったり、物が壊されたままになっているような場所では、犯罪が起こりやすい。上の3要因でいえば、縄張意識と当事者意識が低い場所であるからだ。
落書きを消したり、監視カメラをつけるなどの施策によって犯行に「都合の悪い状況」を作り出すことが、犯罪率低下に効果があると結論されている。それにはまず、発生率の高い場所をみつける必要がある。
■犯罪発生マップ作成のすすめ
そこで推奨されるのが、地域コミュニティで犯罪発生マップを作成してみること。犯罪が起きた場所というより、犯罪が起きそうな場所を地図で色分けしていく。この本では学生が作成した事例が紹介されている。詳細な実物が見たいと思ってWebで探すとたくさんみつかった。
東京都の場合、このようなマップになるそうだ。
・犯罪発生マップ(警視庁作成、東京都)
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/yokushi/yokushi.htm
インターネット犯罪でも、犯罪発生マップはつくれるのだろうか。たとえばホームページの背景が黒だとクラックされやすい、であるとか、ドメインのつけ方によって、犯罪者に狙われる確率が変わる、など。もしかするとオンライン犯罪にも都合の良い、悪い状況があるかもしれない。これからの研究になるのだろう。リモートからシェルにログインを試すと、「このサーバはFBIの監視下に置かれています」なんてメッセージが表示されるサーバはどうだろうか。侵入者は諦めてくれるだろうか。
個人や家族の身の安全を考える上で、最近の理論が分かりやすく示されていて、参考になる本だった。感想としては「君子危うきに近寄らず」が安全なのだなということ。
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