新しいものを次々と生み出す秘訣
先日、お台場の科学未来館で動くASIMOを間近で見ることができた。これはそのとき撮影したデジタルビデオからキャプチャ。テレビでは何度も見ていたが、動く実物がそこまで迫ってくると思わず声をあげそうになった。二足歩行はぎこちないのだが、そのぎこちなさが人間っぽいのだ。
その未来館のショップで購入したのがこの本。ホンダのロボット開発創始者で基礎研究所の所長、常務が引退後に書いた新しいものを次々と生み出す秘訣。
このぎこちなさの秘密も本に書いてある。こんな研究所でのやりとりがあったらしい。
「衝撃の大きさが問題なら、ゴムを入れて吸収したらどうでしょう。後は制御でなんとでもなります」
「ゴムなどいい加減なものを、制御系に入れたら、ますます不安定になってしまう」
ゴムの採用を提案した研究者は密かに”ヤミ研”を続ける。上司も黙認する。結果的にはゴムの利用で転倒が減った。
テレビの体操選手が着地してからバランスを崩し、一歩足を前に出す動作を観たことが、更なる改良につながる。「どうせ踏み出すなら転倒力に逆らわず、むしろその力を利用して踏み出したほうが姿勢の回復が早いし美しいんだ」
こうして、転ばせまい、転ばせまいとしていたロボット二足歩行の研究は、倒れそうになったときには積極的にその方向へ加速させ、それによって継続的な歩行を可能にするという発想が生まれた。20世紀中には無理と言われた二足歩行がこうして実現されていった。私が見たぎこちないけれど人間っぽいASIMOの動作は、転びそうな力を逆に利用して継続歩行する設計思想が関係しているのかもしれないと思った。
機器個体の機能を最適に制御しようとするインディビジュアル・インテリジェンスに対して、ネットワークでつながった機器が自律、協調、調和するネット・インテリジェンスの時代になると著者は技術の未来を語っている。ASIMOもまたネット・インテリジェンスのかたまりでもあるようだ。
こうした知恵が創出される自由でありながら理念を持った研究組織をどのように作り出したか、がこの本の主要テーマである。理念なき行動は凶器、行動なき理念は無価値というホンダ創業者のDNAを受け継ぎながら、一人一人が自由に活き活きとした活動ができる「ゆるやかな縛り」を大切にせよという。ASIMOを生んだ”ヤミ研”活動も、理想的動作を諦め転倒力を利用して自然な動きを実現したアイデアも、緩やかな縛りの中で生まれてきたものといえるのだろう。
「
「要するに君たちに鉄腕アトムを造ってほしい」と切り出すと、みんなすぐに理解してくれた。イメージや目標を共有したいとき、適切なメタファを見つけるやり方は、非常に効果的だ。
」
そして研究テーマは個人提案という形を取る。言いだしっぺにやらせる。ノッてるときは水を差すな。未来像からやるべきことを考えよ(フューチャー・プル)。そしてビジョンを持て。
「
「先が見えないからビジョンが描けない」というのがおかしい。ビジョンは先が見えるから描くというものではない。自分たちは将来こうありたい、という姿を描くのがビジョンですから、先が見える見えないは関係がない。むしろ見えないときこそ描かなければいけない
」
経験知として次の言葉も感銘した。
「先送りされた不都合は必ず未来に存在し、将来、何倍にもなって我々の前にたちはだかる」
開発でも経営でも、不都合の先送りは問題を解決しないどことか、将来の脅威を育ててしまうことが多いと思う。システムの開発でも、技術的な壁にぶつかったとき、難しいからという理由で安易な代替案に逃げていると、やがて大きなトラブルの種になってしまう。
最後に10の法則がまとめられている。
・新しいものを次々と生み出す10の法則
1 企業理念不易の法則 決してブレない
2 ビジョン=旗の法則 総力結集の秘策
3 本質認識の法則 点でなく線や面で見る
4 現状肯定の法則 未来は現在の中にある
5 現状否定の法則 従来の延長線上に未来なし
6 不都合是正の法則 先入観を打破する
7 フューチャー・プルの法則 発想は将来最適で
8 プレゼント・プッシュの法則 問題はさっさと片付ける
9 共創マネジメントの法則 異質な人を集める
10 TDCの法則 踏み出す勇気を持て
新しいものを一度生み出すのではなく、”次々に”生み出す現場のマネジメント論として面白く読めた。
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