知的好奇心
この本の初版は1973年とかなり古い。
人間は本来怠け者なのでアメとムチで動機づけしなければ活動的にはならないという人間観を、20世紀の古典的な行動主義心理学は提唱していた。これに対して、人間は本来活動的で、自分の能力を発揮するのを好み、知的好奇心にかられて知的探索をおこなうかたちで学習もしていくという新しい人間観をこの本は打ち出していた。外発的動機よりも内発的動機が本質であり、知的好奇心を育むことが、教育や労働の現場に求められているという内容。
知的好奇心を持たせるには、多様な刺激の量が適切に与えられていることが大切だという。設備が貧弱で人員の少ない劣悪な施設で育てられると、子どもはIQが平均以下になってしまうそうだ。ホスピタリズムと呼ばれるこの悪影響の原因は、愛情を注いでもらえない環境にあるという説もあったが、どうやら愛情そのものが問題ではなく、愛情にもとづく行動のもたらす結果にこそあると著者は述べている。
愛情を持ってこどもを育てる母親は、こどもに積極的に話しかけ、あやし、わらいかけ、スキンシップをする。一緒に遊ぶ。すると、こどもに多様な刺激が入力される。これが知的好奇心の育成に大切なことであるらしい。早親の愛情そのものが不在でも、多様な刺激のある環境におくとIQが高まったこどもの実験例も紹介されていて興味深かった。
多様な刺激が好奇心を育む。そして学習が進むと人は今度は逆に新奇なものを恐れたり、嫌ったりする保守主義の傾向がでてくる。
人間は信念や知識を否定する対象を避けるという事実を証明する面白い実験の話もあった。テープに、喫煙と肺がんの関係を支持している話、支持していない話を6話ほど録音しておく。このテープ再生機には意図的にノイズが入るように設計されている。このノイズはボタンを押せば数秒間解除される。聞きたい話の時には被験者は積極的にボタンを押すはずだ。
この実験を行ったところ、喫煙者は非喫煙者よりも、肺がんと喫煙の関係を認める話の部分でボタンを押す回数が少なかったという。聞きたくないことは聞かないわけだ。キリスト教を攻撃するメッセージを次に録音して、今度は信者とそうでない人たちに聞かせると、同様に信者はキリストを攻撃するメッセージでは、ボタンを押す回数が少なかったという。
しかし、新奇なものを人は好む面もある。これは程度問題で、自分の行動や思想を大幅に修正しなければならないほどの新奇さは、避けようとするが、適度に新しいものにはむしろ積極的に吸収しようとする。ただ新しいということだけで十分に人は好奇心を持つ。サルでも同じで、ごほうびがなくてもパズルを投げ込むと解こうとする実験結果が示されていた。アメとムチ以外にも活発化させる動機が動物にもあるわけだ。
もうひとつ大切なのが向上心。成功する早期教育の例として、著名な音楽教育者のバイオリンをこどもに教えるには?というアドバイスが、小さい子どもの親としては興味深い。最初に習うはずの曲を何も言わずに家でBGMにかけておき、繰り返し聞かせておく。さらにいつも聞いていたその曲を母親や同年代のこどもが演奏している場面を見せる。有能さのお手本を自然に見せることで、多くの子どもが1,2ヵ月後に自分からバイオリンを習いたいといい始めるそうだ。
後半は教育論。知的好奇心をひきおこすには、
こどもの持つ信念や先入見の利用
足がかりになる知識を与える
既存の知識のずれにきづかせる
とよいとまとめられている。
内発的動機の作り方について示唆に富む本で、文章が読みやすい。
・集中力
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001205.html
・学ぶ意欲の心理学
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003134.html
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> 早親の愛情そのものが不在でも、
上記,「母親」の誤記だと思われます。簡単に指摘だけ。