組織を変える〈常識〉―適応モデルで診断する
「組織の常識は世間の非常識」という状況になぜ陥ってしまうのか、理論的でありつつ、やさしく解説した組織論の本。最近のNHKや三菱自動車、社会保険庁のような組織の常識の破綻がなぜ起きるのか、不確実な現代を生き抜く強い組織はどういう組織かを適応のモデルを使って論じる。
■頑健な共有意味世界に生きる組織と適応性
まず組織の必要条件として「意味世界の共有」があると定義される。
「組織が共有する意味世界は、それに関与する人びとの交代によって左右されないいわば頑健性がある」
それは一般に組織の中で、常識と呼ばれ、具体的には
「常識とは、”かなり共通の対人経験”を有する人びとが客観的だと同意する事柄である」
とされる。ただし、この常識は外部の現実世界のそれと異なる。組織はそれが生きる環境自体を仮想的に創造して、組織の常識を作り出し、その内部に生きるという。
「
組織によって主体的に想像された環境像が実際の環境を創造し、その創造された環境が今度は組織を拘束するのである。これが常識の環境捏造性である
」
「
動植物が環境に受動的に適応するのに対して、人間組織は自らが捏造した環境に適応するのである。
」
組織の常識に反する新しい事態が起きると、不安になり、コミュニケーションが常識を疑う相互了解を形成する。その結果、常識の信頼性が下降して、捏造された環境自体が力を弱める。逆に言えば捏造環境が成長している間は、組織の常識も成長する。これが組織の適応モデルだという。
■未練のハードルと臆病のハードル、組織に4分類
しかし、組織が長年かけて築いた常識を、一度限りかもしれない新しい事態をきっかけにそのたび作り直していては、組織は安定することができない。過去の成功から学び取った知識はまだ有効であるかもしれないからである。そこで、組織の適応には二つの機制が存在する。
1 「未練のハードル」
不安が増大してもとりあえず今の常識を信頼しようとする機制
2 「臆病のハードル」
今の常識が軽々しく疑われたり批判されるのを避ける機制
この二つの機制により「適応は適応可能性を排除する」のである。
そして著者は、適応のハードル1と2をXY軸にして組織を4つに分類する。
この4類型からどの適応モデルが望ましいものかを決めるには、最大利得または最小損失を理想とする意思決定論ベースの現代経営学では不足であると著者は論じる。利得の確率が不明な不確実な状況下では、どの適応モデルも同様に長所、短所があり、優劣が決定できないからだ。
そこで、著者は意思決定以前の認識の段階での適応モデルの強さを考えるべきだとし、
・組織は多様性に富んでいなければならない(必要多様性)
・よく行為する組織はそうでない組織より認識に優れる(行為の重要性)
という二つの着眼点から、現代の組織として望ましいのは試行型、性急型、慎重型、鈍重型の順であると結論した。つまり、矛盾、言行不一致、ちゃらんぽらんが、首尾一貫、言行一致、真面目に勝るということになる。
過去の経験から学びすぎず、適当に”遊び”のある組織が適応上は強いのだ。いろいろな意見を内側で活発にぶつけながらも、同時に半歩先を行く取り組みには速い、そんな組織が理想だというのは、かなり妥当な結論だなと思った。
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