広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス
・広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス
知的好奇心をかきたてられて大変面白い一冊。
「みんなどこにいる?」と科学者フェルミはつぶやいた。
宇宙には無数の星が存在しているのだから、地球外文明(ETC)との遭遇がもっとあってもよさそうにも関わらず、私たちはまだ隣人の存在を一度も見つけることができていない。これがフェルミのパラドクスで、数々の科学者がこの難問に挑んできた。
発達した通信能力をもった地球外文明は銀河系にいくつあるか、を表すドレイクの公式は、このフェルミのパラドクスを解く鍵となると考えられている。
N=R×fp×ne×fl×fi×fc×L
N 発達した通信能力をもった地球外文明は銀河系にいくつあるか
R 銀河系で1年に星が生まれる確率
fp 惑星を持つ恒星の割合
ne 惑星を持つ恒星のうち生命を維持できる環境を持つ惑星の数
fl 生命が維持できる惑星のうち、実際に生命が育つ割合
fi その惑星のうち生命が知的能力を発達させる割合
fc そのうち恒星間通信ができる文化が発達する割合
L そのような文化が通信を行う期間の長さ
私もこの本を読む前にひとつ自分なりの答えを作っていた。それはこういうもの。
人類のような高度な通信技術を発達させた文明が生まれる確率はとても低い上に、その存続は宇宙の時間では一瞬に等しい。だから、稀に高度な文明が出現しても、二つ以上の文明が近接した時間と領域で通信を交し合うことは極めて珍しい。だから、まだ人類は隣人を見つけることができていない。(だが、運がよければ私たちの時代に見つかるだろう。)
さて50の理由を読んでみると、この仮説もまんざら的外れではなかったようだが、考えたこともなかった理由が3分の1くらい含まれていて、科学者たちの発想の豊かさに驚かされた。
この本では著者が選び抜いた50の理由が以下の3つのパターンに分類されている。
1 実は来ている
2 存在するがまだ連絡がない
3 存在しない
1の実は来ているでは、私たち自身がETC由来の生物だという仮説から始まって、地球はETCの動物園で観察者たちは見つからないように隠れている動物園仮説のような奇抜なアイデアもある。天空はETCによって作られたプラネタリウムなのだという似た案もある。
2の存在するがまだ連絡がないは数が多い。星の距離があまりに遠いこと、こちらに到達するまで時間がたっていない、信号は送られているが聴き方がわからない、向こうは別の数学を持っているなど。面白いところでは、ETCの多くが宇宙など興味がなく、自らが構築した仮想世界にハマっている(ネットを泳ぎ回っている)説や、皆殺しエイリアン集団に察知されるのを恐れて臆病になり通信をしていない仮説など。
3の存在しないは、そもそも人間がいるから観察できる宇宙が存在できるとする人間原理説から始まって、われわれが生命一番乗り説、生命の誕生は極めて珍しい、人間並みの知能はめったにない説、技術の進歩は必然ではない説などがある。
多くの説は、ドレイクの公式の各変数の大きさについて語っている。変数は科学的に検証すればするほど、見積もりよりも小さいことがわかっていく。地球ができて生命が生まれ、知的生命として発達し、現在の文明があること自体が極めて稀な偶然の連続の産物であり、このような状況が近隣で発生することは難しそうなことが分かっていく。
そして、この本の真骨頂は50番目の理由として著者の結論「宇宙にはわれわれしかいない」を書いたこと。著者は50の理由のうち、支持できる仮説をいくつか取り上げて、その掛け算で、ドレイクの公式を解こうとした。すると、各パラメータの数字はあまりに小さくて、答えは1。つまり、われわれしか存在し得ないという合理的な結論にたどりつく。
エイリアンはいる(いた、あるいはこれから生まれる)が、結局、私たちは会うことができない。その通信を受け取ることも永遠にない、という寂しい結論である。だが、Xファイルファンの私にもまだ希望はありそうである。
この本で面白かったのは何度も出てくる「フェルミ推定」の方法論。未知の数字のおおよその大きさを求める工夫。「シカゴにはピアノ調律師は何人いるか?」だとか、「世界中の海岸にある砂浜の砂粒はいくつくらいか」、「カラスは止まらないでどのくらい飛べるか」などの質問に対して、おおざっぱな桁レベルの答えをどうやって見積もるかのノウハウである。
宇宙についてはほとんどのことが未知なので、いかに科学的に出された数字といえど、各変数の大きさはフェルミ推定式な概算見積りでしかない。そのレベルでの概算でも、「われわれしかいない」という答えが出たというのは説得力がある。
だが、この答えを否定するのは難しいようで簡単だ。ETCの電波が今日や明日、特定されてしまえば、破られる。「宝くじに当たる確率は、当たるか、当たらないかの2分の1だ」と言った友人がいたが、この問題についてはそういう答えもありだろう。
本当は事実を合衆国政府が隠蔽しているだけなのだけれども。
The Truth Is Out There.
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