学ぶ意欲の心理学
■学習動機の二要因モデル
学校や企業組織の学習で「外発的動機」「内発的動機」ということがよく言われる。前者は外(上)からのアメとムチ、報酬や賞罰であり、後者は自己実現だとか本人の内側から湧き出るやる気のこと。
東大の教育心理学の教授である著者は、大学の新入生に「あなたは高校まで、なぜ勉強してきたのでしょう」「人は一般になぜ勉強しているんだと思いますか」という質問を行い回答結果群をグルーピングした。すると外発、内発というわけ方におさまらない回答が多かった。
そこで6つのグループに分類し、二つの軸を与えて次元化することで「学習動機の二要因モデル」として構造化した。
・二要因モデル
上段の3つ充実、訓練、実用は相関が高くなるらしい。下の段の関係、自尊、報酬も割合強い相関を持ち、上段と下段は無相関であるそうだ。上段は内容関与的動機(学習内容に関係が深い、英語の勉強は楽しい)、下段は内容分離的動機(学習内容に関係がない、英語ができると親にほめてもらえる)という名前が与えられた。
このモデルは学校でも企業でも活用できそうな有意義な図であると思った(それでパワーポイント化したのが上の画像)。
■論敵との対談2本で浮かび上がる現代教育の論点
この二要因モデルは上段が内発で下段が外発であると勘違いしやすいが、よく図を見ると、そうではなくて対角線にある要素が内発・外発の組になっていることが分かる。精神医で勉強法のベストセラー作家の和田秀樹もこの図を間違って解釈して、うっかり本の中で著者を批判していたらしい。
この本の第2章は、そこから始まった2人の徹底討論である。和田氏は徹底的に外発動機を重視しており、「教授になるとバカになる論」を主張している。一度、終身的な職業である教授になってしまうと、外発動機が働かないので学ばなくなる。だから、和田氏によれば、いっそ教授の上に大教授だとか超教授を作ってみたらどうか、などとユニークな意見。
これに対して、外発的動機は学習の入り口として有効性を認めながらも、それだけじゃないだろうという著者の反論。結局、ふたりは共通する思想を持っている点が多いことも判明するが、最後まで意見は噛み合っていない。現実の教育への言及数の多い和田氏が若干、説得力で優勢か。なかなか面白い口ゲンカ。
第3章もまたもや論敵の教育社会学者・苅谷剛彦氏との対談。「弱者の味方」と称する「強い個人のモデル」という著者の意見が面白い。みんなそれぞれ良いところがあるから個性を尊重しよう、が行き着く先は、一握りの強い個性を持つ成功者の世界になるのじゃないかとは私も思ったから。
現代日本では「ゆとり教育」、「総合的な学習」、「個性尊重」、「新しい学力観」「生きる力」がもてはやされる。逆にかつての「詰め込み教育」は悪で、熱意を持って教師が特別に教えようとすると「それは教え込みでしょう」「こどもの思いはどうなっていますか」などと批判の対象になる。
苅谷氏の語る英国教育事情は日本に通じる部分がありそうだ。「目に見える教育法」「目に見えない教育法」のふたつがあり、個性重視の「新学力観」「生きる力」などは後者である。目に見えない教育法は英国では新中産階級にとっては受け止められやすかったが、ミドルクラスには不評で、ワーキングクラスにとっては不利にさえなるという結論がでているという。
「世界に一つだけの花」が無数に咲くのはいいのだけれど、美しいのは一握りの花のような気がする。そして、個性の花を立派に咲かせるには相当のコストが必要だろう。このふたりの議論を読んでいると、もちろん詰め込み教育、偏差値教育に戻るべきではないけれど、公教育が行き場のない個性化、個別化に向かっている現在のあり方はどこか間違ってしまっているように思えた。
■二要因モデルを超えて
第4章では心理学的な考え方に沿いつつ「やる気を出す方法」が語られる。キーワードだけ抜き出してみた。とても興味深い最終章。
第1ステップ 内容分離的動機から入る
賞罰を自律的に使う
編集者に締め切り設定を自ら依頼する
対人的環境を整える
いいライバルをつくる
第2ステップ 内容関与的動機を高める
学習の楽しさを倍加する工夫
作品化、自分との競争、多重に支えられた動機
教訓の引き出しによって「何が賢くなったか」具体化する
学習の転移、使える応用場面、教訓として一般化
習ったことが役に立つ場面を設定する
学んだことが活きる、機能的学習環境
基礎に降りていく学び
何かやりたいことがあって基礎へ戻る
第3ステップ 二要因モデルを超えて
試練と使命がうむ「鉄の意志」
「なりたい自己」と「なれる自己」を広げる
刺激しあい啓発しあう場をつくる
読み終わった感想。
やはり勉強って普通に頑張ってやるべき部分、あるな、と。
私も頑張らねば。
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