封印作品の謎
・ウルトラセブン 第12話 「遊星より愛をこめて」
・怪奇大作戦 第24話 「狂鬼人間」
・映画「ノストラダムスの大予言」
・ブラックジャック 第41話「植物人間」、第58話「快楽の座」
・埼玉県監修のO157予防ゲーム
これらは世に出ることがない封印作品である。
国が発禁処分にしたわけではなくて、その他の何らかの理由で自主的に封印されている。記事を書いただけでライターとして業界出入り禁止をくらう特撮作品。大作として一般公開されながら二度と公開されない映画。自治体が公開直前に差し止めたゲーム。各業界はこれらの作品をどうしても隠したい、なかったことにしたい理由がある。
元全国紙の新聞記者だった著者は、自分の書いた記事が原因となって、あるゲームが封印されてしまったことに問題意識を持った。そして記者経験で培った取材力を使って、作品封印のメカニズムを広く探り始める。
隠したいと思う関係者ばかりだから取材は当然難航する。著者は諦めずに当事者を探しては、粘り強く食い下がっていく。あとがきによると、この本を書くために記者を辞職し、自動車を売った100万円で銀行預金とにらめっこしながらの執筆活動だったそうだ。かなり大きな人生の賭けだっただはずだ。その緊張感がこの作品を光らせている。
取材を進めていくと、背後にある大きな業界構造、社会構造の暗部が浮かび上がってくる。隠したがっているのは誰で、何が理由で、どのような権力を背景に封じようとしているのか。業界の専制企業、裏社会、圧力団体、封印するものと著者は正面から向き合う。ときに日本の戦後史に関わる思わぬ大物を釣り上げてしまったりもする。
要するにこの本に登場する封印作品の謎の中身は、原爆や精神病や差別問題、18禁テーマに触れたことに始まる。だが、触れただけなら大した問題にならない。問題箇所のある作品は表現を修正削除して再公開されることが多いからだ。ここで取り上げられた作品はそれも許されなかった。
以前、書評した「放送禁止歌」でも、放送禁止の最大の理由は外部の圧力ではなかった。封印が長く続く作品にはもっとドロドロした本当の理由が内部に隠されているのである。著者はその内幕実態を、新聞社の名刺ではなく、フリーランスの肩書きで、取材活動を通して明らかにしていくことに成功した。困難な取材プロセスの臨場感、著者の封印解明への熱意が、読むものに生々しく伝わってくる。新聞記者を辞めてこそ書けた作品だろう。血の通ったドキュメンタリになっている。それが抜群に面白い。
・放送禁止歌
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001449.html
言論の自由を大上段から振りかざさないネット的スタンスもいい。この著者は前書きで告白しているが、大学時代に"酒鬼薔薇聖斗"の顔写真をネット公開して社会的議論を巻き起こしたサイト「反動!」の運営者である。その後、全国紙記者になっていたのには驚いたが、辞職してこの本を書いたのはこの人っぽいなと思う。
2004年10月25日に初版発売で、既に5刷出ているから、相当売れているようだ。記者時代はインターネット担当だったこともあるらしい。次はインターネット関連の封印を見つけて解明して欲しいなと思った。安藤氏にしか書けないテーマがありそうだから。
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