フィールド 響き合う生命・意識・宇宙
よく売れているようで気になったので読んだ。一応トンデモ本と認定。でも、よく書けていて楽しめたので紹介。欧米ではベストセラーであるとのこと。
■ゼロポイントフィールド(ZPF)で万物はつながっている
この本の中心テーマであるゼロポイントフィールド(ZPF)とは量子力学レベルにある「モノとモノのあいだの空間における微細な振動の海」のこと。著者はあらゆる存在は、時空を超えてZPFでつながっている、とする。
量子世界では最小単位の粒子は確率論的な振る舞いをする。通常のニュートン力学世界では、コインを投げれば表が出るか、裏が出るか、どちらか一方の状態しかとりえないのに対して、量子力学の世界では、コインは表であると同時に裏であることができる。人間が観測したときに状態が確定する。この微細なレベルではその観測行為が結果に影響を及ぼすため、観測する前の状態は2分の1が表であり裏であると考えるのが正しいことになる。
確率論的な存在であるということは、すべての状態が同時に存在しているということだ。聖書のヨハネ黙示録でキリスト教の神は「私はアルファでありオメガである」と言った。神は人間が考えうる限りのすべてであるという意味だろう。この存在の仕方は量子世界の存在の仕方に似ている。私たちの日常感覚とは違った存在の仕方が、原子より下のミクロのレベルには隠れている。
ここまでは量子力学の常識で十分に科学なのだが、ここからこの本は独自の理論に飛躍していく。著者は、確率論的振る舞いの意味を拡大して、過去に起きたことも未来に起きうることも、すべての情報がZPFの中にあるということだと解釈している。そして量子真空であるZPFはエネルギー的にはゼロであるが、量子世界のゆらぎによって、内部では粒子の生成と消滅がくりかえされる。その運動は波動を持つ。波動は共鳴効果を生み、万物がその共鳴でつながっているというのである。
私たちの身体もすべての物質も、根源的には量子力学レベルの微細な粒子が織り成す原子で構成されている。意識もまた原子でできた脳細胞のはたらきだから、ZPFとつながっていることにされる。こうして精神世界と物質世界のすべてが、ZPFという超越的空間の粒子の振る舞いの産物だということになる。
■ホメオパシー、乱数実験、遠隔透視
さあ、すべてがつながってしまった。イエール、スタンフォード、バークレー、プリンストン、MIT。世界の一流研究機関やノーベル賞受賞の科学者たちが実名で登場し、彼らの研究や実験が、ZPFの正当性の根拠として、次々にならべられていく。どれも常識を覆す話ばかりで、ファンタジーとしては楽しめる。
いくつかを以下に紹介する。
【ホメオパシーと水の記憶】
ホメオパシー治療は科学的には実証されていないが、比較的知られた代替医療のひとつである。ホメオパシーとは病気や痛みの原因となる物質を、希釈して、極めて少量だけ投与すると、逆に病気や痛みが治癒するという未解明の理論にもとづく。
物質を薄めるには水を使う。奇妙なのは、原因物質の分子が理論的にはひとつも観測できなくなるレベルまで、大量の水で希釈しても、その効果が持続してしまう現象の報告である。科学者パンヴェニストの理論によると、分子は遠く離れても固有の周波数の振動で共鳴するという。英国の生物学者ルパード・シェルドレイクの形態形成場、形態共鳴も似た理論である。同じ形態の分子は共鳴現象を通じて、地球の裏側であろうと何万光年先の宇宙であろうと、影響しあっているという。
だから、原因物質を大量の水で希釈すると、組成的には単なる水であっても、以前混入していた物質の波動は残っている。それを飲んだ患者は痛みや病気が治癒する。実験の報告では、プラシーボ効果の可能性は排除した結果であるとされている。
【意識が現実に影響する】
プリンストン大学の変則現象研究(PEAR)の研究はこの本に何度も引用される。乱数発生装置をつくり、0から1までのランダムな数を大量に発生させる。その間、被験者は、0よりも1に近い高い数値が出るように念じる。そして何千回、何万回の乱数発生の記録を分析する。
当然、結果はグラフにプロットすれば、中央値を頂点とする正規分布曲線が描かれるはずである。だが、この実験結果の偏差は微妙にずれている。1または0に近い数字がでる期待値はどちらも50%のはずが、どちらかが51%に近い数字になってしまう。12年間、250万回の乱数発生実験を総合すると、52%という報告もある。被験者によっては狙ったのと逆に偏る傾向もあるそうだ。これは乱数発生器の回路に、ZPFを通じて、意識が作用した結果だと説明される。
【FBIやソ連が研究した遠隔透視】
互いに連絡のない被験者AとB。数百マイルの遠距離にいる被験者Aの観ている風景を、Bに向けて念じる実験を繰り返し行う。その結果、3分の2近くが偶然で説明できるよりもずっと正確な一致をみせたという。
このほか、
・ DNAが放つ生物光子(バイオフォトン)が、健康の鍵を握る。
・ 生き物同士は、光子の吸収・放出によるコミュニケーションを行っている。
・ 水は分子の周波数を伝え、増幅する「記憶メディア」である。
・ 意識とは量子コヒーレントな光であり、細胞内の微小管を介して共鳴する。
・ 未来や過去は「根源瞬間(シードモーメント)」の確率としてある。
・ 記憶は脳の「外」にもあり、巨大な時空の記憶庫に保存されている。
・ 私たちの願いや思いは、世界を変えることができる。
・ 集団や場所のエネルギーがあり、個人の意識・健康にも影響する。
などといった話が出てくる。
どれも突っ込みどころ満載の実験結果であるが、ノーベル科学者だとか宇宙飛行士だとか、学会の世界的権威も多数含まれているのが興味深い。著者が権威を捻じ曲げて引用した部分もありそうだが、こうした驚愕の結果を真面目に語っている立派な科学者も多いようだ。この本には登場しなかったが、心理学者ユングが晩年に提唱した「シンクロニシティ」も似ている。まっとうな大科学者も、ときどき奇妙な実験を本流の合間に行っていることがあるようだ。偉大な勘違い集として価値がありそう。
■境界線上でのひらめき、発想の元として
この本を非科学として批判するのは簡単である。まず量子力学レベルの法則を、ニュートン力学レベルの世界に、恣意的に持ち込んでしまっている。再現性のなさそうな実験を、著名な研究者や研究機関の成果だからという理由で正当化しようとしている。
ただ、この本は比較的、理性的、良心的に書かれている。ニューサイエンス系の本は、無根拠な前提や神秘主義が多すぎて、途中で読むのを放棄してしまうことが多いのだが、最後までいっきに読みきることができた。各事例について結局は肯定するものの、一応、著者も疑っている面があるからだ。非常識な研究の中に、将来解明される真実のヒントのひとつかふたつは隠れているのかもしれない。
量子レベルの科学だとか、脳のプロトコルだとか、創発系だとか、通常科学の考え方の外に踏み出さないと説明ができないことも、先端にはよく登場する。サイエンスとニューサイエンスの境界線上で遊ぶ心が、サイエンスの世界での偉大なひらめきにつながる。
またこうした新奇な発想は次世代のコンセプトを先取りすることもある。PCネットワークに使われているイーサネット(Ethernet)の語源は、アリストテレスが発案し、19世紀以前の物理学で、空間に充満していると仮想されていた物質「エーテル」だそうである。ZPFネットワークだとか、波動コンピューティングなんて言葉が近未来の私たちの情報処理システムに登場するかもしれない。
とりあえずアーサー・C・クラークは大絶賛している。オンライン書店でも大人気。
・Passion For The Future: 科学を捨て、神秘へと向かう理性
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002634.html
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