孔子
・孔子
中国滞在中、土日は企業訪問ができないので、北京発の夜行寝台列車に午後11時から8時間揺られて、山東省の曲阜(きょくふ)、泰山へ足を伸ばしました。曲阜は孔子の故郷、泰山は始皇帝に始まる歴代皇帝が神聖な秘密儀式を執り行った霊地として、共に有名な世界遺産ナす。
飛行機、列車で読んでいた本が井上靖最後の長編小説「孔子」。主人公は孔子ではなく、架空の愛弟子。孔子没後数十年が経過して、孔子の研究会が盛んな時期に、師の教えを弟子が回想する独白形式で小説は進んでいきます。この研究会の成果がやがて「論語」として出版されることになるわけです。執筆時、井上靖は80歳。主人公の弟子が語る孔子観や、孔子の言葉の解釈は、著者自身の解釈でもあるのでしょう。
さて、この本を読んでいたおかげで孔子の故郷訪問はとても充実しました。曲阜で最初に訪れたのは孔子研究院。孔子の教えや子孫の残した遺品、論語の名場面の銅像などがありました。
孔子の墓の前では第75代の子孫が絵を描いて観光客に売っていました。墓前で営業できるのは子孫だけの特権。ありがたく名刺をもらってその場では感動していたのですが、よく考えると75代子孫は何万もいるのではないかと考え込んでしまいました。孔子研究院の話では孔子の直系子孫は台湾に移っているはずですしね。(帰国後調べたら曲阜市65万人の人口の2割は孔子の子孫だそうです...じゃあ、墓前の絵描きの価値って如何程也?)。
そして、孔廟(孔子を祭る廟)、孔林(孔子一族歴代の住居)と続いて回りました。学問の神でもある孔子様の霊験で少しは私も頭がよくなったかもしれません。観光後は我々を騙そうといろいろ仕掛けてき現地ガイドに連れられみやげ物屋の2階でお茶。
中国では近代化で儒教精神は薄れても孔子は根強い人気があるのだそうです。歴史的にも孔子とその一族は特別な存在であって「紫禁城騎馬」が許されていたとガイドが話していました。紫禁城内でも馬を降りずに通ることができる皇帝以外の唯一の人物という意味だそうです。特別なのです。
このみやげ物屋には論語の言葉の掛け軸などがありました。ふと知っている言葉のある漢文掛け軸に目をやっていると中国人の店員が「ショウネンオイヤスクガクナリガタシ、ネ」と音読してくれました。やっぱり、日本人客にはこの言葉が人気なんですね。
でも、私が好きなのは少し似た部分もある「逝くものは斯くの如きか。昼夜をおかず」。孔子が川のほとりでつぶやいたといわれる有名な言葉。悠久の時の流れを詠んでいるのだ、達観の境地を説いたのだなどの解釈が複数あるようですが、この井上靖の小説では晩年、相次いで弟子に先立たれた孔子の死生観として論じられていました。この掛け軸があったら買ったのにな。
昼食ではセミの空揚げも頂きました。ええ、虫のセミです、蝉...。
(食感はエビ。独特の匂いがあります。)
そして泰山へ移動して翌朝は泰山登山へ。泰山鳴動し鼠一匹と言いますが、泰山は中国人にとって、それだけ偉大で特別な山。大半のメンバーは徒歩で7000段の階段にチャレンジする一方で、私はロープウェーという飛び道具を使ってしまいましたが、聖なる山を満喫しました。ここでは歴代皇帝が天地の神を祭る「封禅の儀」が執り行われていたそうです。そして、ここにも小さな孔子の廟がありました。「孔子」「封禅の儀」というと、つい諸星大二郎の「孔子暗黒伝」を思い浮かべてしまいました。
登山後、ふもとにある岱廟(たいびょう)へ。岱廟は北京故宮の太和殿、曲阜孔廟の大成殿とあわせて中国の3大木造建築なのだそうです。私は一回の中国訪問で3つを制覇してしまえて幸運でした。そして済南へ出て特急でまた6時間で北京へ戻りました。旅程がタイトで夜まで食事ができず。クタクタになりながら、孔子の言葉「帰らんか、帰らんか」とつぶやきながら北京到着。
王府井(日本の銀座?)にて夕食。北京と違って、まだ地方では儒教や孔子の教えは中国で大きな力があるようだと感じました。中国に関心のある人に、この小説は論語そのものよりも、とっつきやすく、世界観を拡げるのに最適な一冊ですとおすすめ。
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何時も卓見を拝見しております。
今回は「孔子」の郷、曲阜へ行かれたのこと、論語の普及に少しかかわっていた者として、懐かしくて筆をとりました。
おっしゃるように孔子の子孫は台湾におれれる「孔徳成」さんが正統とうかがっています。論語普及会の招きで何回か我国にもおいでになりました。
ユリウスさんこんにちは。
泰山・曲阜はなかなか行くのが大変でしたが孔子が身近なものになりました。
プロフィール拝見しました。ブルースハープとともに、クロマチックハーモニカは私も少しやってました!半音がでてどんな曲でも吹けるのが楽しいですね。