パラサイト社会のゆくえ データで読み解く日本の家族
■30歳を超えたパラサイトシングル、不況でさらに厳しい環境に
著者は7年前に、親同居未婚者を指すパラサイトシングルという言葉を生み出した社会学者。長引く不況の7年後、当時のパラサイトシングル層の一定数(著者推定は3割)は結婚しないまま同じ状態を続けているという。本来は同居することでリッチな生活を志向した彼らだったが、30歳を超えた現在、収入は減少、不安定化し、心理的にも将来への不安を抱えて生きているというのが著者の分析。
結婚できない理由として著者の独自調査「男性未婚者の年収と女性未婚者の期待」という表が挙げられていた。例えば東京では、男性の収入のマジョリティは200-400万円で43.2%。これに対して女性の期待は600万円以上で39.2%。現実に600万円以上稼いでいる男性未婚者は3.5%しかいない。これではかみ合わないので結婚が成立しないのだという。
パラサイトシングルの親の年齢も高齢化し、収入が減る。親のスネもかじる部分がなくなって、パラサイトシングルの未来は明るくない。未婚者と多く重なる、400万人を超えるフリーターは若者の2割を占める。入学者を増やしたが就職ポストがない大学院からは、毎年1万人近く博士課程出身の超高学歴フリーターが世に出る。
だが、好きでフリーターをやっているのは国民生活白書によると14.9%に過ぎず、大半は正社員になりたいのだけれどなれない状況がある。たとえ就職できたとしても、終身雇用や年功序列の崩壊、大企業の倒産で、ごく一部のエリート以外は未来は不確実で安定は保証されない。このような状況で自暴自棄になった若者が凶悪犯罪を引き起こしているのではないかと著者は分析している。
■あがりのない社会をどう変えるか?
この本はパラサイトシングルだけでなく、様々な統計データを引用して、現代社会の動向を俯瞰する。雇用、育児、教育、年金の問題など。1分49秒に一組の離婚、お年玉の金額の2年連続減少、4人に1人ができちゃった婚、年賀状の内容変化、中年の自殺の増加など、ミクロからマクロを考察する章は特に面白い。
「子供の3人に1人は夢がない」が特に気になる。私が子供のころの夢といったら、宇宙飛行士になりたい、野球選手になりたい、果ては世界征服したいなど野望に満ちた夢を語るのも珍しくなかった。この本の著者の世代では広い家に住みたい、ベランダのある家に住みたいなど住環境に関わる夢が多かったらしい。それに対して現在は小学校から高校までの子供の3人に1人が夢がないと答えるらしい。お年玉の目的も欲しいものがないから、貯金が第一位。
以前、あるシンクタンクの打ち合わせで聞いた「現代はあがりのない社会」という言葉がずっと気になっている。欲しくてたまらないモノがないこと、目指すものがないこと、理想がないことが社会の停滞の大きな理由であることは確かだろう。
メディアで取り上げられる成功者たちも、
・元からお金持ちの家系にうまれた人たち
・極めて少数の天賦の才能のある人たち
・世渡り上手でうまくやった人たち
のようなタイプが多い気がする。これでは目指せない。
著者は、努力が報われ、大人や仲間から評価される仕事を作り出すことが問題解決につながると提言しているが具体策は示されていなかった。思うに、立身出世物語とスポ根ドラマの復活というのは今更日本では流行りそうにない。国内にあがりを求めず、国際社会でのあがりを示すのが正解のような気がする。
■パラサイトシングルは未熟か?
この本で、気になるのは著者はパラサイトシングルを良い意味では使っていないような雰囲気が随所にうかがえること。すべてのパラサイト=未熟な若者というのは偏見だろうと思う。確かに欧米では高校を卒業した時点で別居し独立して生計を立てるのが一人前に大人社会に入る通過儀礼なのかもしれない。だが、家族がいつまでも一緒の家に住めることって本来、最高の贅沢なのではあるまいか。パラサイトシングルも親と同居のまま結婚してしまうと単なる二世代同居になる。それはむしろ幸せそうだ。
また同居を親が望んでいる場合、経済的援助をするにしても、それは依存ではなく、共生に近いはずである。共生の結果、手元に残るお金を若者が自分の趣味や将来への投資に使っているとしても、それは合理的判断であって未熟とは思えない。
切実に家を出たいのだけれど経済力がなくてできない割合というのは本当に増えているのかも疑問である。アンケートを取れば親元を離れて自由に暮らしたいと答える若者は多いだろうが、多くは希望を述べただけで、切実ではないはずである。
本当に切実だったら...。多分、稼ぐのではないか。稼がなくてもどうにかなるから稼がないだけだろう。どうにかなってしまう
パラサイトシングルは高度成長の結果、豊かになり、成長の限界に直面した成熟社会の自然な帰結である気がする。若者がモーレツ、死に物狂いにならないと生きていけない社会のほうが不安定な社会だ。パラサイトシングルについては、良くも悪くもなく、なるべくしてそうなった現象と捉えて、その生活様式をどうリッチにするかを考えたほうが建設的な気がする。
■私の結婚論
さて、ここからは私の独自の考え。
なぜ結婚しない若年層が増えたのか。
真の結婚の原因(というのも変だが)とは”なりゆき”なのではないだろうか。二人の共通意思というのは実際にはないわけで、両性の二つの意思の合意が結婚には必要になる。どちらか一方だけではだめだし、両親や親戚などの反対があるとややこしいことにもなる。自由意志は絶対条件であるが個別の意思ではどうにもならない。当事者の視点では明確な意思を持って結婚したケースであっても、本当の原因は”なりゆき”と言えるのではないか。
またパラサイトシングル論が結婚しない原因に挙げている収入の不安定さについては疑問がある。若くて愛し合う二人がお金がないからという理由で結婚しないものだろうか。普通に考えれば共働きで収入を増やせる。生活の諸経費も共通部分を減らせる、はずなのである。結婚したいからお金を貯めるケースはあっても、お金がないから結婚しないのはおかしくないか。お金がないからを理由にするカップルがいるのだとすれば、機が満ちていないに過ぎないと私は感じる。
”なりゆき”が発生する確率が減ったのが本当の原因だと私は考える。
国立社会保障・人口問題研究所の統計に面白い数字がある。2002年のお見合い結婚は7.2%である。だが、この数字、戦前にはお見合い結婚が7割を占めていた。1965 〜69 年頃にお見合いと恋愛結婚が逆転して、恋愛結婚全盛の時代が到来している。
・第12回出生動向基本調査/国立社会保障・人口問題研究所
http://www.ipss.go.jp/Japanese/doukou12/chapter2.html
そう、本来が日本社会では、個人が結婚しよう!と思って結婚できたわけじゃなかったのだ。お見合いという”なりゆき”合成装置があって結婚が成立していた。自然に”なりゆき”(両者の同時合意、周囲の賛成、良い状況の3点セットが揃うこと)が発生する確率はそれほど変化がないのだとしたら、お見合いが減った分だけ(戦前では7割!)、結婚が減った部分も大きいというのが、私の推測である。
結婚しない人の増加が日本経済にとって問題であるならば、
・結婚を前提とした男女のみが登録できるソーシャルネットワーキングサービス
・おせっかいな仲人バーテンダーのいるお見合いバー
あたりが日本を救うソリューションとなるのではないだろうか。
と、この本のデータと意見に対していいかげんな持論を述べまくってしまったが、日本社会の未来について考える肴として、大変面白い本である。
トラックバック(1)
このブログ記事を参照しているブログ一覧: パラサイト社会のゆくえ データで読み解く日本の家族
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/1442
著者: 山田 昌弘 タイトル: パラサイト社会のゆくえ 「パラサイト・シングル」という言葉をご存知でしょうか。これは、著者の山田昌弘教授がつくった言葉で、学卒後も親と同居して基本的な生活条件を依存し、リッチな生活を楽しむ未婚者のことを指すの... 続きを読む
こんにちは。
パラサイトについての考察まったく同意です!
時代の変化にあわせて、日本はあたらしい武士道を構築しないといけないと思います。
ところで、結婚論について「アダムの呪い」面白いですよ。
すでに読まれていたら失礼します〜。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4789722791/qid%3D1097716118/250-2359231-0756256
ではでは
「僕の髪〜が〜肩まで伸びて〜」という、自由+結婚なトレンドが70年代にあったからでは?「同棲時代」とかいう映画もあったらしいし。
何かしらブームがほしいですね。1990年代初頭は皇室の結婚ブームでこれものせたられた人がいた。
ringoさん久しぶりです。アダムの呪いも気になってました。
Fuzzioさん、どうも。
ブームですか。あいのりが受けているのは、ある種のお見合いニーズがあることのような気がします。あれビジネスにできたりして。
お金がなかったら結婚しようと思わないのあたりまえじゃん。
漠然と収入が増えることを期待できる世の中でもないし。