占いの力
・占いの力
■疑われながらも受け入れられている占い
90年代後半、インターネットの占いコンテンツの供給で一儲けした人がいると聞く。バイオリズムや四柱推命の簡単なアルゴリズムを使って、運勢の浮き沈みの波にあうように、各タイプの365日分のテキストを作成し、それを○○占いのテーマに合わせて書き換える。これだけでも、コンテンツを探していたサービスプロバイダー企業にずいぶん売れた、らしい。占いは単独コンテンツとしても使えるし、各種サービスメニューの一つとしても、手ごろであることが、受けた理由のようだ。
朝のテレビ番組でも、ニュースや天気予報と並んで今日の運勢のコーナーが堂々と存在していたりする。公共電波を使って当たるも八卦、当たらぬも八卦の情報を流してよいのか?とは誰も問題にしない国である。だが、占い師を職業とするもの以外は、占いを科学とは言わない。外れても訴える人はまずいない。それが怪しげな知識だとは認識されていながら、同時に広く受け入れられている。占いを信じる層も幅広く、高名な経営者も占いを信じていたりする。井深大、本田宗一郎、松下幸之助らも占いやオカルトが嫌いではなかったという。
この本は、古今東西の占いに触れながら、現代における占いの流行の構造を探る。対象は血液型占いや性格診断や風水までも含む。かなりお気楽な文体で書かれており、冗長な部分もあるのだが、現代人の占い人気を考えるのに面白い記述がある。
■アブダクションと物語発生装置としての占い
この本によると、占いには大きく3タイプがあるそうだ。
命占 誕生の時を軸に運命を解明する、四柱推命、占星術など
相占 万物の形象に宿るメッセージを読み解く、手相、姓名判断など
卜占 道具を用いて天意を読み解く、易、タロット、トランプ占いなど
そして、どのタイプも、
天意→占い師→私
という流れでメッセージが伝わる。天意はそれ相応の専門家でなければ読み取ることができないのがポイントである。一般人は本を読んで占星術のホロスコープやタロットカードの組み合わせを作ることはできても、その図柄を解釈することができない。
そして、占い師→私においては、誰にでも当てはまる上に受け入れられやすい記述が渡される。「誰にでも楽しんでもらえる」を売りにした実在のサーカス団の名前を取って「バーナム」効果という心理用語があるそうだ。万人が受け入れてしまうメッセージのこと。人間は誰しも人と違う自分を認めてもらいたいと思っている。そうした心理を突いたメッセージで、これって私のことかもと思わせるのが占いの巧妙さであるとする。
面白かったのは占いはアブダクションだとする著者の考え。
演繹法では、
(ルール)赤いものを持っていると幸せになる
(実例)赤いものを身につけていた
(結果)幸せになった
の順序であるが、これでは説得力に欠ける。赤いものを持っても良いことがなければ、信用度が落ちる。
帰納法では、
(実例)赤いものを身につけていた
(結果)幸せになった
(ルール)赤いものを持っていると幸せになれる
となる。が、これでは、実例と結果の間の推論がどう考えても不自然に思われる。
だが、あらかじめルールを暗示しておいた場合、
アブダクションでは、
(ルール)赤いものを持っていると幸せになる
(結果)幸せになった
(実例)赤いものを身につけていた
という構造になる。たまたま、幸せになった人たちが、予め暗示されたルールを、因果関係として推論することで、納得してしまうという説。後だしジャンケンみたいなものだが、これが占いの本質であるとする。
今流行しているオカルトの多くは実は近代になって流行したものであると著者は言う。科学を強く意識すればするほど、それが扱えない事象が気になる。オカルトは荒唐無稽なようでいて、(しばしば飛躍した)論理で原因と結果の因果関係を物語る、物語発生装置なのだというのが著者の結論である。
インターネットサイトでも相変わらず占いや性格診断は人気が高い。ひとつには、コミュニティで転送して楽しめるのが原因であるようだ。この本のエッセンスから、転送されやすい、増殖されやすい占いを開発して一儲けたくらんでみようか。