現場調査の知的生産法

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現場調査の知的生産法
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フィールドワークベースの仕事をする人の為の知的生産術の本。

■現場とのインタラクション、引き出す技術の大切さ

国内5000工場、海外1000工場を踏破した”歩く経済学者”による現場調査の方法論。

大手マスメディアの記者でさえも、インターネットで情報が引っ張れるのを良いことに、当事者と合う、現地に行くという、取材の基本姿勢を忘れている感がある。スピード時代のメディアの変容であって、それもある程度は仕方がないことなのかもしれない。だが、それでは失ってしまうものがいっぱいある。この本には、そうしたアナログ的で、関係性を重視した、取材や調査の方法論が述べられている。

・現場に利益を与えることを意識して取材せよ
・現場と一生つきあう覚悟を持て
・報告書は読者へのラブレターのつもりで書け
・本は「書くもの」ではなくて「売るもの」(でなければ続かないから)
・フィールドを育てよ

シンクタンクによるアンケートばらまき方式では、本当のことなど聞けない。現場にあたって仕事をするってのはこういうことだ、と、その道何十年の学者が力強く語る本。徹底したアナログ派で、執筆時点ではデジタルカメラさえも使われていないようだ。それが、むしろ新しく感じた。

■知的生産性の高さと秩序だった分類整理は無関係?

著者の資料整理術は大変、参考になった。メモや写真など膨大な資料を整理する時間はないので、プロジェクトごとに大きな紙の手提げ袋に入れて、”そこら”に山積みにしている。手提げ袋にはマジックで日付と場所だけ書いている。立花隆と同じ整理法らしい。著者の部屋の写真も公開されていて、見た目は大変、乱雑に見える。

そもそも、この方法では過去の資料を容易に探すことは難しいと認めている。著者曰く「資料には足が生えてい」て、放っておくとどこかへ行ってしまう性質があるという。


資料管理が危ういほうが、仕事を早くする秘訣でもあると指摘しておきたい。整理がきちんとしていれば、いつでもとりかかれるとの安心感があり、結局、仕事をしない場合が少なくないが、資料を探せなくなるのではないかという不安が大きいと、必死に仕事をはやく片づけようとするのである。

多分、これは言い訳ではなくて、知的生産性の方法として正しいのだと思う。

パソコンの中のファイルやディレクトリへのユーザアクセスの数を集計すると、べき乗則が成り立つという研究報告がある。ごく少数のファイルが頻繁に使われるが、大半のファイルはほとんど使われないということになる。使われない情報の整理に時間を使っても仕方がない。時間の無駄である。リアルの世界でもほぼ同じことが言えるのだろうと思う。
新聞や雑誌の編集部を訪問して、呆れるくらい乱雑な資料の山に囲まれて仕事をしている記者、編集者は多い。いや、むしろ、その方が普通な気がする。大量の情報をフローとして扱う現場はその方が効率が良いのだ。

事実、著者も、すでに取材内容を18冊もの書籍として発行している。その他何十冊もの書籍を書いている。生産性という点ではきわめて高い。こうしてみると、知的生産性と秩序だった分類整理は無関係なのではないか、と思う。

先日の本にもあったが、情報をストックではなく、フローとして扱う整理術こそ、スピードの時代、デジタルの時代に適した術であると思う。超アナログな現場主義の仕事の中に、そうしたノウハウがたくさん隠されていることが分かった。

調査や取材が仕事でなくても、この本で語られる、”訪問先の企業から何かを読み取る技術”は、普通のビジネスマンにも役立つノウハウだと思う。前半はアジアの中小企業の取材ドキュメンタリ、後半は日本の地域振興のドキュメンタリで、それ自体も読み応えがある。アジアへの出張の多い人には旅行術としても参考になることが多い。

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このページは、daiyaが2004年7月 1日 23:59に書いたブログ記事です。

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