快楽の脳科学〜「いい気持ち」はどこから生まれるか

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・快楽の脳科学〜「いい気持ち」はどこから生まれるか
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疲れ、笑いと書評が続いて次、快楽です。情動と脳の仕組みに関心があって関連本を続けて読んでいます。

この本は、医学博士で理研にも在籍経験のある学者の書。およそ考えられる「気持ちいいこと」、「快楽」について語られている。

■管理職のサル

ここで紹介されている米国のジョー・ブレイディ博士の実験の紹介は面白い。

サルを椅子に座らせ、2頭並べて実験をする。どちらの目の前にもスイッチがあるが、一頭の前のスイッチは機能しないダミーである。ときどき不快な電気刺激がやってきて、本物のスイッチを押した方は、それを回避できる。ダミースイッチの前のサルは何をしてもだめである。

つまり、ここには二種類のサルがいる。

1 嫌な刺激を自分の力で回避できるサル
2 嫌な刺激を他人任せにするしかないサル

会社で例えると、前者は言わば「管理職」のサル。後者は「平社員」のサルとみなすことができる。

どちらがストレスを強く感じたかを計測すると、「管理職」の方が強くストレスを感じるという。サルの管理職は完璧な仕事をするストレスにやられてしまうのだ。逆に、完璧な仕事をする知能のないラットで同じ実験をすると、「平社員」にストレスがかかるという。有能な管理職はストレスが高い。無能な管理職の下の平社員はストレスが高い。世の中の構図そのものになってしまった

心理学の世界ではこれらの実験の積み重ねから、「予測できないこと」「対処できないこと」がストレスの主因であると考えられるようになったという。

■低次脳と高次脳のはたらきの統合

一般的に脳科学の世界では、快楽は報酬系と結びつけて考えられがちである。有名なパブロフのイヌの実験のように、餌と刺激の関係を学習し行動に反映させるような考え方だ。この本も前半は、そのような報酬系の基本原理から始まる。

報酬系の考え方では、生存確率を高めるような行動が「快楽」に対応している。栄養価の高いものを食べること、社会関係の中で認められること、気持ちの良い環境で過ごすこと、魅力的な異性と性関係を持つこと、など。快楽を得て、その行動を繰り返したいと思うおかげで、動物は生存や繁殖の確率を高めている。そういう古典的な考え方だ。

しかし、著者は、ヒトを報酬系による単純なシステムとはみなしていない。単純な報酬系では説明できない実験データや、最新の脳科学の研究で分かってきた事柄が次々に論じられる。現代的テーマが多数織り込まれているのが、専門家でない読者としては興味深かった。クスリやゲーム、過食、性的倒錯、暴力などへの依存、幻聴や統合失調症など分かりやすい事例満載。

著者の文章を引用すると、


私たちはこれまで「自分」という自我の主人公で、それが脳の各部に命令を出して、全身を統率しているのだと考えてきたが、本当はそうではないかも知れない。食欲や性欲の中にも「自分」が散在し、それぞれがそれなりに自己主張しているように思われる

低次の情報処理を行う動物的な脳と、高次の処理を行うヒト的な脳は複雑に相互作用していて、快楽や感情は、その織り成す綾なのだ、という議論が説得力を持って展開される。
特に後半は、精神の正常や異常を分ける現代精神医学への批判や、それを個性とみなして受け入れることで、実現できる豊かな社会へのビジョン提言など、脳科学、精神医学の範囲を超えた著者の深い洞察と哲学が語られて、深く感動してしまった。

一般向けに感情や快楽と脳の関係を語った名著。

■インターネットの快楽

この本にもほんの1行、インターネット依存症についても触れられていた。著者は「本気にしていない」らしいのだが、参照されたのはこの2003年の論文だ。

・Internet over-users' psychological profiles: a behavior sampling analysis on internet addiction.Whang LS, Lee S, Chang G.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12804026&dopt=Abstract&itool=iconabstr

韓国で13,588人のユーザを調べたところ、3.5%が「インターネット依存症」で 18.4%が潜在的な依存症であると診断できるらしい。基準はともかくとして、精神的にインターネットによるつながり感が生活に欠くべからざるものとなった人が増えているのは間違いないだろう。

私はブログ依存症になっているような気がしている。情報をオンラインで発信することが快楽になっている。アクセス数が増えたり、読者から良い反応がもらえると嬉しくて、多忙な時期でも時間をなんとかとって書こうとする。仕事に支障がでないように、通勤時間と帰宅後しかブログの記事を書かないとルールは作り守っている。が、ぼうっとしていると脳はついついブログのネタを考えてしまう。

当初はブログが仕事の邪魔をしないように気をつけようと考えていたが、最近では、ブログを仕事と統合して折り合いをつけようとしている。コンサルタントという仕事柄、それは不可能ではないように思う今日この頃である。

正常と異常は多様性とみるこの著者の意見と同じように、結局、この依存症を正とするか負とするか、考え方次第の気がする。ああ、今日も快楽に負けて記事を書いてしまったのはダメな私なのだろうか?。

・あなたも「インターネット依存症」かも?
http://japan.internet.com/busnews/20031202/7.html

・米国のインターネット依存症の権威による治療サイト
http://netaddiction.com/index.html

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このページは、daiyaが2004年1月26日 23:59に書いたブログ記事です。

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