企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
■17万6千個のアイデアを書いた超人の本
この本には「有効発想密度の法則」という言葉が出てくる。アイデア1000個のうち、現実に使えるアイデアは3個程度という意味で、よくマーケティングの世界で言う「千三つ」とほぼ同じである。このメソッドは、アイデアは数を出し続けることに意味があるという考え方に基づく。著者は毎日発想をノートに書くという作業を、1984年1月に開始して2003年11月末までの20年間で、276冊のノートに17万6000個以上の発想を記録しているという。
著者は1946年生まれで三井物産カトマンズ事務所長。バリバリのビジネスマンであり、書かれていることも学者、研究者のアカデミックな発想学とは一味もふた味も違う。ビジネスの現場と生活の中での実践的発想術として活き活きとしている。
・著者樋口健夫氏によるアイデアマラソンシステム(IMS)公式サイト
http://www.idea-marathon.net/ja/index.html
アイデアマラソンについて説明やFAQ、プレゼンテーション、著者の書籍の紹介などがある。
アイデアマラソンは、言ってしまえばただノートに毎日アイデアを綴るだけ、である。だが、それを毎日続けて何万件も蓄積することは普通は不可能だ。この本は、ビジネスシーンや生活シーンの中で著者が、どのようにモチベーションを高め、習慣化しているかのディティールと、このメソッドの広い効用が熱く語られる。著者はこの本の燃料を使えば一ヶ月は無着陸飛行ができるはずと書いている。読み終わってそれは強く感じた。メソッドは簡単でも、この本はスタートダッシュのブースターとして価値があると思う。
■アイデアを人に話す
アイデアマラソンのルールのひとつは「アイデアは人に話せ」。
ちょうど、そのくだりを読んでいる間に、パートナーの田口さんから、連絡が来た。「橋本さん、今度のイベントで、パナソニックさんが電子書籍のシグマブックのデモ機、貸してくれることになりました!」。え、発売前のあの話題の端末の実物が会場に出せるの?。イベントのひとつの売り物として参加者にも喜んでもらえる。とても嬉しかった。
・無敵会議 Σブックも登場だ!
http://www.project-on.com/archives/000386.html
・シグマブック関連過去記事:ブック革命―電子書籍が紙の本を超える日
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000837.html
田口さんに聞いてみると、パナソニックさんのこの部門と直接のつながりがあったわけではないらしい。たまたま、最近別件での訪問先で面識を作ったご担当者に、今回のイベントのアイデアをメールしてみたらしいのだ。これなどまさに、「アイデアは人に話せ」である。アイデアが拡張され、連鎖され、実現した良い例だなあと思った。
もうひとつ、私もこのイベントのアイデアを話した方がいる。いわゆる成功ノウハウ本を100冊読んで成功できるか検証するというサイトの主催者の方。面識はないが、あまりにユニークなサイトコンセプトに感動して、今回のイベントにきてお話いただけないか、一か八かでメールしてみた。
すると、こういう展開になった。
・俺と100冊の成功本
http://blog.zikokeihatu.com/archives/000105.html
イベントの内容にひとつ何か(私もうかがっていないので)楽しいことが加えていただけそうな気がしてワクワクしてきた。アイデアを人に話す目的は、言語化によりコンセプトを精緻化すること、他者の視点で正当性を検証評価してもらうこと、だけではないのだなと思った。アイデアを人に話すとコトが実現に近づくということなのではないかと思う。この本の著者もアイデアを話すことは「ツキ」を呼ぶと書かれていた。
■ネタ切れがアイデア発想のチャンス
特に感動したのが、ネタ切れこそチャンスと考える著者の言葉だ。20年間で17万件以上考えたアイデアの達人が言うのだから、励まされる。
ネタ切れと言えば、私にとって原稿が連想される。
このブログでも仕事の原稿執筆の仕事でも、連載は最初のうちは簡単である。蓄積したファーストアイデアの在庫があるから小出しに使う。小出しにする本当の理由は長期連載で何度も分けて使えるから、ではない。ファーストアイデアは思い入れが強いから、出し惜しみをしてしまうのだ。もったいぶってなかなか全部を使わない。
1000本以上、商業媒体で原稿を書いた自分の経験からすると、ネタを隠し持っている間は、次のアイデアはでてこないことが多い。使い切ってはじめて、次の、その次のアイデアが出てくる。これは私個人の特性なのかもしれないが、アタマのアイデア格納スペースはきっと有限なのだ。抱え込んだアイデアを表現して追い出さない限り、次のアイデアはでてこない。
そういう感覚を持っていたので、ネタ切れがチャンスという言葉は心に響いた。アイデアマラソンは、ノートに書くことで吐き出すという行為なのだ。この本には脳の学習や認知モデルの話はほとんど出てこないが、アイデア発想の大先輩の暗黙知に溢れている。
この本を半分まで読んだ時点で、別のコラムを書いた。ひとつのソースでアイデアを広げてみた。この話題にご関心のある方はこちらもどうぞ。
・パフォーマンスアートとしてのアイデアマン
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20040127-01.htm
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