つながりの科学―パーコレーション
パーコレーションとはこの本によると、こういうことである。
箱にパチンコ玉とガラス玉を適当な割合で、上下左右が隣接するように整列させて、大量に詰める。パチンコ玉は電流を通すが、ガラス玉は通さない。上から電流を流すと、ガラス玉が多いうちは電流は下まで伝わらない。しかし、パチンコ玉の数が一定の割合(31%)を超えると電流が伝わるようになる。ミクロな原子のレベルでも同様で、電流を通さない原子に、通す金属イオンを一定量加えると、全体が金属的に振舞う。
噂やデマの研究事例として有名な、1972年の愛知県豊川信用金庫事件。美容室で女子高生が「信用金庫は就職先として危ない」という会話を美容院で話したことがきっかけで、伝言ゲームのように内容が誤解されて広まり、大規模な取り付け騒ぎに発展する。人間のコミュニティでは、情報は一人が平均4.5人に話すと全体に行き届くことが数学的に知られている。さきほどの例でいうなら、話す人がパチンコ玉で、話さない人がガラス玉にあたる。
物質や人のつながり方によって、この31%や4.5人の数字は上下する。この値のことを浸透閾値、パーコレーションの閾値と呼ぶ。この理論を使うと、コーヒーフィルターの抽出時間から、情報の伝播や伝染病の感染拡大の速度までも予想できる。
この本は、自然科学から社会現象まで事例をあげて分かりやすく、100ページ足らずの分量で、パーコレーションの世界を鮮明に描き出すことに成功している。
パーコレーションはネットにおけるクチコミ戦略や、通信の高速化技術の開発にも応用できる。この本を読んでいて思い出したのは、この記事だった。
・Webの「地図」の研究成果が公表。10%はリンクされていない
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0512/bowtie.htm
・IBM Research Maps the Web
http://www.research.ibm.com/resources/news/20000511_bowtie.shtml
・Graph structure in the web
http://www.almaden.ibm.com/cs/k53/www9.final/
IBMやCompaqの研究者グループがWebの5億ページのリンク構造を解析した結果、Webの90%の領域は4つのグループ(起点、終点、結び目、分離された領域)を形成しており、蝶ネクタイのような構造をしている、という。リンクをたどることで自然に到達しやすいページとそうでないページがあること、領域同士をつなぐハブになっているWebサイト群があること、他の領域からリンクされていない分離された領域が10パーセントも存在していることなどが分かる。Webの構造のつながり方や次元数がわかってくれば、パーコレーション閾値を発見でき、ネットビジネスの予測や戦略に使えるというわけだ。
Webではなく人間のつながりも同じだ。友人の友人を6人たどると全世界の誰とでも連絡することができるというパーコレーション的な考え方をWebに応用した友人発見サービス「6degrees」が数年前に話題になった。最近ならば、Friendsterが同様のコンセプトの出会いサービスで百万のオーダーで会員を集めた。
・FreindSter
http://www.friendster.com/index.jsp
FOAFという友人関係をXMLで記述する形式があるが、このような出会い系サービス、インスタントメッセンジャー、メールソフト、Webのリンク集、掲示板などが、このような同じメタデータを作成し、交換するようになれば、より鮮明に友人のネットワーク構造が浮かび上がりそうではある。
・FOAF
http://www.foaf-project.org/
・FOAFメタデータによる知人ネットワークの表現
http://www.kanzaki.com/docs/sw/foaf.html
そういえば、データセクション社経営パートナーの小橋さんも同じようなことを書いている。ケビン・ベーコン数についての以下のコラムである。
・地球の果てまで6人
http://www.zatsugaku.com/stories.php?story=03/08/14/1606547
私たちは、10年後、20年後になると、今は曖昧な「人脈の力」をメタデータとして数値化しているかもしれない。就職の選考や、経営者が投資を受ける際の判断材料として、「キミの人脈データを提出したまえ」なんて言われたりする。業界や職種ごとのパーコレーション閾値と人脈力を組み合わせて雇用や投資の決定が行われる。まあそこまでいかないとしても、オンラインでの人脈、声の大きさ、影響力のある人材は私の会社にも欲しい。いまどきの会社ならどこだって歓迎されるだろう。
パーコレーションという概念はネットビジネス、サービスのアイデアを広げていく要素として興味深い。「つながり方の科学」は物理学の先生の著書だが、私にはまさにネットワーク時代の一冊だと、思う。
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