トップに売り込む最強交渉術
全米ベストセラーの営業ノウハウの著。米キャノン、3M、HPなどで採用された実績があり、40万人がこのプログラムを使って営業に成功したという。組織のVITO(Very Important Top Officer)、つまり社長やCEOに対して、どうセールスをかけるべきか、戦略が述べられている。
本の帯でも紹介されている、おすすめ営業プロセスは、
1 準備 企業調査は最低限で、業界情報に通じておく
2 手紙 見出しはリスク・利益の数字を示しつつ3行以内
3 電話 トップをあなたの話に割り込ませる
4 プレゼン 「利益」から説明を始める
5 成約 トップから推薦の言葉をもらう
という手順だ。ここでいう、手紙はメールではなく普通の手紙(Snail Mail)のことである。手紙は電話の布石に過ぎないが、内容はVITOにではなく秘書に歓迎されるように書けとのこと。将を射ようとすればまず馬から、ということか。
トップ営業を成功させるには、企業組織の「影響力と権限のネットワーク」を正しく理解しておくことが必要だという。そこには4つのカテゴリに属する人間が住んでいる。彼らは同じものではなく、異なるものを探しているのであって、適切な与え方で求めるものを与えないとセールスはうまくいかない。
1 VITO(実質的最高意思決定者) 利益を探している
2 マネージャー(マネージャー) 利点を探している
3 シーモア(技術に詳しい識者) 特徴を探している See Moreが口癖
4 消費者(一般の社員達を指す) 機能を探している
これら4カテゴリの人々の上に立つVITOに、具体的にどのような説得や質問が有効か、を教えてくれる本だ。
企業のトップは忙しくて一介の営業マンのアポイントなど相手にしてくれない、と諦めるのは早計だ。会社の利益には目がないトップたちは、利益をビジュアライズしてやれば、何時間でも会ってくれるのだ。
・著者のオフィシャルWebサイト
http://www.sellingtovito.com
私は、ビジネスにおいて、説得や交渉という営業技術は、瑣末なことではなく、むしろ本質だと感じている。どんなに良い技術や商品があっても、買い手の人間組織を動かすことができないならば、使われないで終わるからだ。開発生産の努力もそれでは無駄になる。説得や交渉の過程で、逆に、商品の問題点や可能性が明らかになることも多い。
究極の営業とは売り手と買い手に電話を2本かけるだけで翌月、自分の口座に振込みが発生することだ、と私は考えている。それによってプロセスに関わる三者がそれぞれ利益を産み、次の取引ゲームを望む関係を維持することが肝要だ。この本の語るトップ営業は、最も純粋にこの理想形を実現できる近道だと思う。
少しITに話を引っ張ると、この汗臭く手間のかかる交渉ゲームの一部は、近い将来ソフトウェアエージェント同士の交渉に置き換わると考えている。既に商品の最低価格を探すロボットや、オークションで自動入札を行うロボットが、ネット上を動き回っている。BotSpotのShopping Botsディレクトリにはその種の例が多数紹介されている。
・BotSpot(ソフトウェアエージェントのディレクトリ)
http://www.botspot.com/
買い手も売り手も仲介者もソフトウェアエージェントになると、ナッシュ均衡やベイズ理論といった「交渉と意思決定」のゲーム理論の研究が、この分野で莫大な利益を産む可能性があると思う。足で稼いだ営業マンのノウハウが、こういったボットにフィードバックされる日も近いのではないか。この金脈を掘り当てられないかと今、密かに研究中である。
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ぜひ、その金脈を私にも知らせてください。
この本で言うところの「VITO」のhakiiさん、こんにちは。
ゲーム理論の技術解説については近日エントリにまとめようとしていますが、裏でこっそり儲けるビジネスの儲けのアイデアの部分は直接密談しませう(笑)。