デジタル・ビジネスデザイン戦略―最強の「バリュー・プロポジション」実現のために
・デジタル・ビジネスデザイン戦略―最強の「バリュー・プロポジション」実現のために
ITを導入して画期的に変わる企業、変わらない企業、その違いはどこにあるのかを、デジタルビジネスデザイン戦略(DBD)により成功している企業事例をベースに研究した本。デジタルイノベーターとしてケース分析されるのは、デルコンピュータ、セメックス、チャールズシュワブ、シスコシステムズ、DBDを推進する巨大企業としてGEとIBM。
デジタルビジネスデザインのマトリクス
A ドットコム企業(高いデジタル化、劣ったビジネスデザイン)
B ビジネスデザインの貧弱な企業(低いデジタル化、劣ったビジネスデザイン)
C デジタルビジネスデザイン企業(高いデジタル化、優れたビジネスデザイン)
D ビジネスデザインのリインベンター企業(低いデジタル化、優れたビジネスデザイン)
著者によると、いかなる組織も上記のマトリクスのどこかに位置づけられる。大半の企業がBに分類されるが、現代の華々しい実績を誇るごく少数の企業はCのDBD企業のエリアにある。
成功したDBD企業は、デジタル化したビジネスによって、効率を上げ、顧客にユニークな価値の提案(バリュープロポジション)を達成しているのだという。
たとえば、今では当たり前になってきたが、デルが最初に顧客に提供した、PCのカスタムオーダーWebサイトが事例として挙げられる。この「チョイスボード」システムは顧客に便利を与えただけではない。デルはこの仕組みによって、リアルタイムに販売や流通の状況と、顧客の求める商品機能が分かる。在庫を余分に持たず、既知のデータに基づく正確な予想で生産を最適化し、吸い上げたニーズを短期間に商品開発に活かせるようになった。従来のリテール方式では、販売後何ヶ月もまたなければ販売数や顧客の声が分からなかったのに。チョイスボードはデルのビジネスデザインの根本的な仕組みとなった。
DBD戦略企業は単にPCやネットワークやデータベースを導入しただけの企業とは違うのだ。チョイスボードに続いて幾つもの、デジタルビジネスデザインのキーコンセプトが紹介されていく。後半のGEやIBMでは巨大企業が、改革の痛みを乗り越え、この組織の根本的なビジネスのデジタル化をどう推進しているかが語られる。
著者はDBD企業の特徴をFAME=迅速(FAST)、正確(ACCURATE)、可変(MORPHABLE)、外的(EXTERNAL)な、4つの性質を帯びていることと結論している。これを実現するには一社だけでなく、サプライチェーン全体がデジタル化を危機的な命題として取り組む必要がある。
当たり前だが、本業が冴えないからWebで販売を始めてみようか、ERPを導入してみようか、といった小手先のIT導入では成果は期待できない。そういう話を、実例ベースの、強い説得力で整理してくれる名著である。
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